第1章 憂鬱王子はキスをくれない.
「 本当、可愛くなったな 」
黒尾さんが見た事ないくらい優しい顔で
私の事なんかを突然褒めだすものだから
慣れなくてムズムズして頬が赤く染まる
「 褒めないで下さい …
黒尾さんが私を褒めてるのなんか変 … 」
「 何照れちゃってんの?
さてもう遅いからそろそろ寝るかァ── 」
黒尾さんはとても大きな伸びをしながら
ベッドに雪崩れ込んであくびをしている
私も部屋に戻らなくてはと静かに立ち上がる
すると黒尾さんの手がゆっくりと伸びて来て
私の腕を掴んでベッドに引き戻されてしまう
体勢を崩した私は黒尾さんの腕の中に居た
「 ちょっと … !危ない 」
「 今日はここで寝ろ 」
「 何を言ってるんですか?
いつもだったら行為が終わった瞬間から
すぐ帰れって追い出すじゃないですか? 」
「 いいから、今日は一緒に寝よう 」
黒尾さんの腕の中で踠いてみたものの
力の強さで到底叶う筈なんかもなくて
私は抵抗するのを諦めてここで寝る事にした
「 ちょっと … 黒尾さん?
寝づらいので離れてもらっても良いですか 」
「 このまんまで良いだろ
密着してたらムラムラでもすんのかァ? 」
「 馬鹿じゃないですか?
黒尾さんと一緒にしないで下さいよ
性欲くらい自分でコントロール出来ます 」
黒尾さんにそう言い放ち彼に背を向ける
後ろから彼に抱きしめられている体勢だった
向き合うよりまだこっちの方が寝やすいかと
私はこのまま眠ってしまおうかと瞼を閉じた
すると黒尾さんの寝息が耳に当たり始める
くすぐったくて顔をすぐに動かして避けた
それでもまだ耳に息が吹きかかってくるので
黒尾さんがわざとやっているのにすぐ気付く
「 わざとやってますよね? 」
「 性欲コントロール出来るんだろ?
だから本当かどうかを試してみてんの 」
「 本当、黒尾さんって幼稚ですね 」
呆れながら私は黒尾さんを無視する事にして
再び重い瞼を閉じて眠りにつこうとし始めた