第1章 憂鬱王子はキスをくれない.
「 なんて言われるとでも思ったかァ? 」
揶揄う様にヘラヘラ笑い始める黒尾さん
私はムカついて彼の肩をパシッと強く叩いた
不覚にもドキドキしてしまった自分はバカだ
やっぱりこの人と私はきっと合わないと思う
「 名前を呼ばれた事に驚きました 」
「 ああ、そうだっけ? 」
「 いつもはおチビかお前ですよね?
私の名前を覚えていた事に驚きましたね 」
「 馬鹿にしてんのかよ
名前くらいは流石に覚えてるだろ
まあこれからは付き合ってる程なんだし
お互いに名前で呼んでた方が自然だろ?
お前もその黒尾さんって呼ぶのやめろよ 」
そう言いながら煙草を灰皿に押し付けている
流石の黒尾さんでも名前は覚えていたか
関心無いだろうし知らなくても驚かないけど
にしても黒尾さんを黒尾さん以外で呼ぶ、か
想像だってつかない 呼び名すら思いつかない
「 じゃあなんて呼べば? 」
「 鉄くん以外にしろ
そう呼ばれんのあんまり好きじゃねえから 」
陽葵ちゃんは黒尾さんを鉄くんと呼ぶけれど
彼はどうも鉄くんなんて柄では無いと思う
だから本当もそう呼ばれるのが嫌なんだろう
「 黒尾さんが決めて下さい
ちゃんとその通りに呼びますから 」
「 ん── じゃあクロって呼べ
幼馴染とか後輩とかはみんなそう呼ぶしな 」
「 クロ … ですか? 」
「 いきなり鉄朗はハードル高いだろ? 」
クロってなんか猫の名前みたいで少し可愛い
鉄くんよりはマシだけどそれも何だか変だな
私は心の中で黒尾さんの事を嘲笑っていた
「 あとその敬語もやめろ
付き合ってんのにおかしいだろ? 」
「 仕事上仕方ないじゃ無いですか … 」
「 普通に怪しまれんだろうが
とにかく明日からは俺をクロって呼んで
その他人行儀に聞こえる敬語をやめろよ? 」
「 はい … 分かりました 」
項垂れながら黒尾さんを見つめていると
突然 彼が近づいて来て私の頬を触り始める
いきなりだったので思わず固まってしまう