第1章 憂鬱王子はキスをくれない.
黒尾さんと陽葵ちゃんが出掛けて行くと
残された私はリビングでぼんやりしていた
久しぶりのオフで何をしようか迷っていた
すると菅原くんが微笑みながら近寄って来た
「 美雨ちゃんは何も予定ないんだ? 」
「 はい … 予定なしですね
突然休みだと言われても何をしたら良いか …
菅原くんは今日は仕事じゃないんですか? 」
「 じゃあ俺から提案がある!
今日ヘアモデルとかやってみない?
丁度女の子探してたんだけどどう? 」
── ヘアモデル?!私に務まるのか?
「 モデルってタイプじゃないですよ … 」
「 大丈夫、大丈夫!
俺が美雨ちゃんをカットしたりカラーして
メイク担当にメイクさせて写真撮るだけだべ
それに頑張って痩せて可愛くなったんだし
ついでに髪の毛もイメチェンしちゃおうよ 」
全てをプロにお任せ出来るならまだ安心か …
ヘアカットも久しぶりだしやってみようか
伸びっぱなしの髪の毛を見つめながら頷く
「 分かりました、私で良ければ … 」
「 よし決まりっ!
じゃあ早速俺が働いてる店に向かうべ! 」
メイクもするので私はすっぴんのまま
自分の服に着替えると私達は家を出た
どんな風になるのか内心楽しみである
「 どんなイメージにしたいとかある? 」
運転席に座っている菅原くんが私に尋ねた
どんなイメージにしたいかなんて浮かばない
雑誌なんかも読まないし流行りも知らない
「 分かりません … 」
「 美雨ちゃんは小柄だからね …
可愛い系の方が似合うかもしれないけど
そこをあえて綺麗めに大人っぽくする? 」
「 全てお任せしますっ! 」
「 これは美容師の腕の見せ所か──っ 」
菅原くんは爽やかに微笑みながら私を見る
赤信号で車が停車すると彼の手が伸びて来た
髪の毛をとかす様に指でサラリと触れている
いきなり触れられて内心ドキドキしてしまう
彼は私にとって無害だと思っていたのもあり
全くもって警戒していなかったからだと思う
「 美雨ちゃんって綺麗な黒髪だよね 」
目を細めながら私を見つめる菅原くん
呆気にとられてしまい何も言葉が出てこない
信号が青に変わると車はゆっくり走り始めた