第1章 憂鬱王子はキスをくれない.
夕方を過ぎると住人達が続々と帰宅してきた
澤村くんと侑くんは今日は遅くなるそうだ
お味噌を温めていると赤葦くんが私を呼ぶ
「 美雨にこれあげるよ 」
手渡されたのはスポーツ店の紙袋だった
一体何が入っているのかと私は困惑していた
紙袋の中身を開けると何やら色々入っている
真新しいランニングシューズにウェアー
何故かご丁寧に横長いタオルまで入っていた
「 これって … ? 」
「 靴 合ってないの履いてるでしょ?
靴擦れしてるのが昨日気になったんだよ
見てると痛々しいから俺は嫌なんだよね 」
私の足元を指差しながら赤葦くんは言った
そう言えばかかとの辺りに靴擦れが出来て
シャワーの時に痛いなって思ってたんだけど
赤葦くんは脱衣所でそれに気が付いたんだ …
それで私に新しい靴を買ってきてくれたの?
「 ウェアーはついでだけど
昨日 走りに行く時の格好が変だったから。
買うお金も無いんだろうからそれはあげる 」
「 貰って良いんですか?
嬉しいです … ありがとうございます!
何かお礼しないと … どうしましょう … 」
私が慌てながらあたふたしていると
赤葦くんは静かに近寄り耳打ちした
「 お礼なら体で良いよ
今日、体空いたら俺の部屋までおいで 」
言いたいことだけ言って彼は去っていった
お礼は体でってそんな大した体じゃないのに
こんなので赤葦くんは本当に良いのだろか?
でも私の中で彼の好感度は一気に上がった
気にかけていない様で気にかけてくれている
見ていない様で見てくれている事が嬉しくて
そして痛々しいからなんて言っていたけど
私の足を労って靴をプレゼントするなんて …
さりげない優しさが本当に嬉しかったのだ
紙袋を持ったまま立ち尽くしていると
近くに居た木兎くんが私に声をかけた
「 美雨!赤葦に何貰ったんだよ! 」
「 新しいランニングシューズと
ランニングウェアーを貰っちゃいました 」
「 ピンクで可愛いじゃん!
美雨って肌の色がすげぇ白いから
ピンクとか淡い色が似合いそうだもんな!
赤葦はやっぱりこうゆうセンスいいなあ! 」
そっか … 彼は少なからず私の事を想いながら
ランニングシューズやウェアーを選んだのか
そう考えてしまうと少しだけ恥ずかしくなる