第1章 憂鬱王子はキスをくれない.
翌朝 眠っている及川さんを起こさぬ様に
ベッドからすり抜け私は部屋を後にした
リビングには先に起きていた陽葵ちゃんが
みんなの朝ご飯の支度を既に開始していた
「 おはようございます 」
「 美雨ちゃん おはよう
昨日はあのまま徹くんの部屋で寝てたの? 」
「 はい … そうなんです
気が付いたらベッドで眠ってしまってて 」
味噌汁に入れる具材を切りながら答えると
陽葵ちゃんはくすくす笑いながら私に言う
「 徹くん優しかったでしょ? 」
「 はい … 優しかったですよ 」
お互い彼に抱かれた身であるから分かる事だ
側から聞いたら不思議な会話なんだろうけど
ここじゃそれが普通だから恥ずかしさは無い
「 木兎くんとはまだだったよね? 」
「 はい、まだそうゆう事はしてません 」
「 木兎くんとは体力勝負だよ 」
プロフィールブックにも要注意って書いてた
体力勝負って事は激しいって事なんだろうな
彼の顔を想像するとなんとなく納得が出来た
陽葵ちゃんは顔を下に向けたまま咳払いをし
聞き辛そうにしながらも恐る恐る私に尋ねた
「 鉄くんは … その … どうなんだろうね 」
「 黒尾さん … 」
2回目のセックスをした事は言っていない
彼女が黒尾さんを好きな事を知ってしまった
その事はあえて言わず伏せる事にしておこう
「 黒尾さんとした時の事は覚えてなくて 」
「 気が付いたら終わってたんだよね … 」
「 そうなんですよ … !
実際にしたかどうかすら分かりませんし! 」
あれだけ本人が何食わぬ顔をしてヤッたと
言い放ったんだから信じないかもしれない
でも私なりに一生懸命気を使っているつもり
「 変な事 聞いちゃってごめんね! 」
陽葵ちゃんは少し悲しそうな顔を浮かべた
やっぱり彼女は黒尾さんの事が好きなんだ
こんな悲しそうな顔をされると私も複雑だ
黒尾さんには暫く近寄らないようにしよう