第1章 憂鬱王子はキスをくれない.
リビングに降りると数人でお酒を飲んでいた
黒尾さんと澤村さんと岩泉くんに陽葵ちゃん
私は静かに横をすり抜け東側の階段を上がる
「 おい お前そっちじゃねぇだろ 」
すぐに黒尾さんに見つかり声を掛けられた
どうせまたからかわれるに決まっている …
もう私の事はほっといてくれたら良いのに
「 及川さんに呼ばれてます 」
「 美雨!クソカワに呼ばれてんのか?! 」
「 はい、これから行ってきます 」
「 俺の部屋はあいつの隣だから
もし助けが必要な時は大きな声で叫べよ? 」
「 大丈夫ですよっ!
及川さんはああ見えて優しい人ですから 」
岩泉さんは心配そうに私の事を見つめていた
私は黒尾さんの方をチラッと見ながら言った
言われてばかりも癪だから嫌味を言ったのだ
言ってやったと私は少しだけすっきりした
私は軽く会釈をし静かに階段を上って行った
及川さんの部屋は確か1番奥の部屋だった筈
── コンコンッ
「 やあ、美雨ちゃん遅かったね?入って 」
「 失礼します … 」
家主だけあって部屋は誰よりも広かった
デスクの上にパソコンと大量に散らばる書類
普段ヘラヘラしててもこの人は会社のトップ
密かに仕事は真面目にやってるんだと思った
「 散らかっててごめんねえ 」
「 全然大丈夫です 」
「 じゃあ早速なんだけどこの水飲んで? 」
及川さんははしゃぎながら私に水を手渡した
どうして水なんかを飲ませたいのだろうか?
不思議に思いながらも言われた通り飲み干す
中に何か入っているような気配はなさそうだ
無味無臭の一般的なミネラルウォーターの様
「 あ──っ!今日も1日疲れた
美雨ちゃんってマッサージとかって得意?
全身凝り固まってて体が重たいんだよね 」
「 上手いかどうか分かりませんが
私で良ければマッサージしましょうか? 」
「 やってやって──!! 」
及川さんはベッドに勢い良くダイブして
うつ伏せで寝そべって足をバタつかせている
私は寝ている及川さんの体にゆっくりと跨り
彼の腰の辺りを自分の手でそっと触れてみる