第1章 憂鬱王子はキスをくれない.
ぶっきらぼうに差し出されたフォーク
私は静かに受け取りながら彼に言った
内心ケーキが食べたかったから嬉しい
「 食べて良いのですか … ? 」
「 ケーキ2個も食べられないし
ましてや自分がそんなに好きでもない
モンブランだし君が責任持って食べなよ 」
一緒に食べようって素直に言えばいいのに
月島くんって不器用な人なのかもしれない
2人で並んでケーキを頬張るが特に会話無し
楽しいティータイムとはいかない様である
「 美味しいですか … ? 」
「 まあ美味しいよ
君は甘いものとか好きそうだよね 」
「 はいっ!甘いものは大好きです
食べてると幸せな気持ちになりますよね 」
「 だろうね …
食べる量を減らした方が良いんじゃない?
だからこんな体型になっちゃうんデショ 」
折角 月島くんと会話が弾みそうだったのに
彼に嫌味を言われてしまい険悪ムードが漂う
そんな事わざわざ言われなくても分かってる
ブスッとしながらケーキを食べる手は止まる
月島くんは私の顔を覗き込みながら言った
「 美雨、こっち向いてみて 」
ふてくされた顔をして月島くんを見つめると
彼は私の口元にゆっくり手を伸ばして来る
── ちょっと月島くん … 何する気なの?!
「 クリーム付いてる … 」
突然の出来事に驚いてしまって呆然とした
平然とクリームを指で拭いペロッと舐めた
彼は特に照れることもなく紅茶を口にした
褒めたりしたらあからさまに照れるくせに
こんな事をしても照れたりはしないのか …
「 少しくらいダイエットしたら?
元々の顔はそんなに悪くないんだし 」
貶してるのか褒めてるのか良くわからない
残したケーキを月島くんの方へ差し出した
散々言われた後じゃ到底食べ辛いのである
それにもうそろそろ行かなくてはならない
「 私はそろそろ行きますね
及川さんの部屋に行かないといけないので 」
「 へえ 人気者なんだね … 」
私は静かに立ち上がり彼の部屋を後にした
さて早く及川さんの部屋に向かわなければ
彼の部屋は東側で一旦階段を使い下に降り
リビングルームを抜けなければならなかった