第1章 憂鬱王子はキスをくれない.
「 みんなもう出勤しちゃったよ 」
陽葵ちゃんは見渡す私を見て微笑みながら
残された皿やカップを1人で洗っていた
私も慌てて駆け寄って行き彼女を手伝う
「 寝坊なんて久しぶりにしました … 」
「 昨日は鉄くんと一緒に居たんだ?
鉄くんは私にはそんな要求した事ないから
そうなったって聞いて正直驚いちゃったな 」
「 そうなんですか … ?
実はそうなった事を全く覚えてなくて …
気が付いたら彼の隣で眠っていました 」
陽葵ちゃんは丁寧に皿を洗いながら
なぜか少しだけ寂しそうな顔をしていた
私にはその理由がよく分からなかった
「 私も昨日は侑くんの部屋に居たの 」
「 そうだったんですね
侑くんは陽葵ちゃんの事が好きですよね
なんだかすごく懐いている気がしました 」
「 どうかな … 独占欲とかじゃないかな?
侑くんは特に独占欲が強いし甘えん坊だし
その辺は本人にしか分からない事だよね 」
「 住人を好きになる事ってあるんですか? 」
お互い良い歳の大人の男女であるわけだし
惚れた腫れたの話があってもおかしくは無い
ただ実らなかった場合は気まずいだろうけど
全く無いわけでは無いだろうと勝手に思った
「 ある … と思うよ
同じ屋根の下に住んでいるわけなんだし
それに相手は9名のイケメン達だからね!
美雨ちゃんはもし恋人にするなら誰が良い?
やっぱり最初に枕を交わした鉄くんかな? 」
「 黒尾さんは絶対に嫌です!
私はあの人は特に苦手かもしれません!
と言うかむしろ彼は大嫌いなくらいです!
もし恋人にするなら及川さんか澤村さん
あとは岩泉さんが良いなあって思います 」
「 その3人は確かに優しいよね
鉄くん そんなに嫌われちゃったんだ?
昨日も美雨ちゃんにチラッと言ったけど
彼はああ見えて本当は優しい人なんだよね 」
陽葵ちゃんはなぜあんな奴を庇うんだ
彼女に何を言われても私の気持ちは変わらず
これからもきっと黒尾鉄朗が大嫌いである
ただ陽葵ちゃんが黒尾さんの事を話す時に
嬉しそうにするもんだからあまり言えない