第1章 憂鬱王子はキスをくれない.
と言うかせめて黒尾さん以外の人が良かった
悪びれもしない彼の顔が頭から離れずにいた
バスルームを出てタオルで体を拭いていたら
突然 扉が勢い良く開き私は硬直してしまう
黒尾さんが洗面台を独占し始めたからである
「 すっぴんだと余計に小学生かよ 」
「 ちょっと!出てって下さいよ! 」
「 髪の毛くらいはいじらせろ 」
「 そんな髪セットしても一緒でしょ?! 」
「 あ?!お前 今なんつった?! 」
黒尾さんはこちらを鋭い目つきで睨みながら
ジワリジワリと私を壁へと追いやっていく
逃げ場はないし謝っといた方が良いのかな?
彼の不機嫌な顔が私の顔にゆっくり近づいた
「 あのっ … 伺いますが
私と黒尾さんはキスもしたんですか? 」
私が急に突拍子も無い質問をしたからか
黒尾さんの動きはピタリと止まってしまった
「 俺はメイドとはキスしねぇ主義だから 」
それだけ言うとバスルームから出て行った
私のファーストキスは死守されたみたいだ
処女じゃないくせにキスはまだ未経験なんて
可笑しな話ではあったが私は安心していた
やっぱりファーストキスは好きな人としたい
唇を触りながら未来の王子様の姿を想像した
意地でもファーストキスを死守してやるぞ!
髪の毛を乾かして部屋に戻って化粧をして
私は急いでリビングルームへと戻ったのだが
住人全員が既に仕事に向かった直後であった