第1章 憂鬱王子はキスをくれない.
すると私の隣に座っている黒尾さんが口を開く
私はなんだかとてつもなく嫌な予感がしていた
── この人は一体何を言うつもりなの?
「 つかさあ
クビになるってちゃんと仕事してたのかよ
今時クビになる方が珍しいくらいなのによ 」
「 確かに
20歳にもなって貯金が全く無いのも
僕はどうなんだろうって思いますケド 」
「 俺でも貯金してるくらいだぞ!! 」
「 計画性が無かったって所ですかね 」
東側の住人達とは違い西側の住人の言葉は
揃って辛辣かつ厳しい言葉ばかりだった
確かに現実的といえば現実的ではあるけれど
この人達には優しさってものが無いのかね …
岩泉くんが私の事を心配していた理由が
なんとなく分かってしまったかもしれない
何か西側の住人は性格がキツイ人ばっかりだ
東と西でどうしてこんなにも差があるものか
それは一番自分がよく分かっています
分かっちゃいるけど一斉に責めなくたって!
私が苦笑いをしながら肩を落としていると
黒尾さんがヘラヘラしながら再び口を開いた
「 精々この仕事もクビになんない様になァ 」
嗚呼ダメだ … 私は黒尾鉄朗が嫌いだ!!
正論だって事は充分に理解しているけれど
デリカシーが無い男は大嫌いだ──!!
「 黒尾さんそんなに虐めたら
新人さんが可哀想じゃないですかァア─ 」
「 まあまあ!仕方無いじゃないか
貯金なんて今からいくらでも出来るんだし 」
月島くん それはきっと本心じゃないよね?
にしても本当に澤村さんナイスフォロー!
みんなも彼の事を見習えば良いのにね …
彼らの言葉に内心とても苛ついていた私は
ワインをひたすら黙ったまま飲み続けていた
赤ワイン5杯目を早々に飲み干した頃に
胃全体がぽっと暖かくなって心地よくなった
酒に酔うというのは体が夢を見る事と同じだ
思考回路はもはや崩れて視界が薄れていった