第1章 憂鬱王子はキスをくれない.
及川さんは爽やかな笑顔を浮かべながら
黒尾さんを諭す様な優しい口ぶりで言う
「 クロりん!そんなに怒んないでよ
こんな子ほど意外と化けるもんなんだから!
それに現に出会った時より可愛いくなったし
これからの美雨ちゃんの成長が楽しみだね! 」
「 クロりんって呼ぶな
このハンバーグはおチビが作ったのか? 」
「 いえ … 味付けは陽葵ちゃんが。
あのっ!私は美雨でおチビじゃありません 」
「 陽葵が味付けしたなら大丈夫か。
形が歪っうだけで不味そうに見えんだな!
チビなんだからおチビだ 文句あんのか? 」
「 … いいえ 」
ぐぬぬ … 黒尾鉄朗という男は嫌な奴!!!
なんてこうデリカシーが無いのだろうか
嫌な奴!嫌な奴!嫌な奴!心で繰り返す私
あくまでここに置いてもらっている身だから
言い返したい気持ちをぐっと堪え我慢した
「 美雨ちゃん?
鉄くんはあんなこと言ってるけど
本当はすごく優しくて面倒見が良いんだよ
だから気にしないでね?許してあげてねっ 」
陽葵ちゃんが私にウィンクしながら言った
私には到底そんな風に見えないし思えない
1番の策は黒尾鉄朗には極力関わらない!
「 今日は肉だああ!にっくにっく── っ 」
「 全員揃ったし食べよっか!
今日は美雨ちゃんの歓迎会って事にして
久しぶりにワインでも開けちゃいますか! 」
及川さんは奥にあるワインクーラーから
赤ワインを3本腕に抱えながら戻って来た
慌ててグラスを用意して赤ワインを注ぐ
全員分グラスを回し終えると私達も席に着く
ウゲッ!私の隣の席は黒尾鉄朗であった
出来るだけ関わりたくないのに本当に最悪だ
及川さんが咳払いをしワイングラスを持った
「 美雨ちゃん、ようこそ!乾杯── っ! 」
乾杯を交わした後でワイングラスを見つめる
ワインを飲んだことがない私は躊躇していた
「 美雨ちゃんは赤ワイン苦手だった? 」
「 苦手と言うか … 飲んだ事がなくて 」
「 飲めないなら私が飲んであげようか? 」
「 これだからおこちゃまは … 」
隣に座る黒尾さんが呆れながらそう言って
涼しい顔をしたままワインを口に運んでいる
何なの?自分だけ偉そうに大人ぶっちゃって