第1章 憂鬱王子はキスをくれない.
「 陽葵ちゃん … 綺麗 」
「 次は仕事じゃない時に着れたら良いなあ 」
「 黒尾が意外にカッコイイんだよな── 」
今、目の前で自分の身に起きている現象に
頭がついて来ず会話が一切入って来なくなる
彼女を見れば見るほどあんだけ大好きだった
元カノにしか見えなくなってしまっている。
ボケーッとしていたら木兎が俺に声を掛けた
「 黒尾!お前聞いてんの?! 」
「 ああ … すまん、何だよ 」
上の空 まさにこの言葉が俺にはぴったりだ
俺はただ疲れてるだけって事にしておこう
また一喝されない様に集中して会話を聞く
「 こんなに可愛くなっちゃって。
早速 及川さんのモノにでもなっちゃう? 」
及川がおチビの髪の毛を優しく触りながら
テーブルに頬杖をついたまま微笑んでいる
それを見て何故か少しだけ嫌な気持ちになる
おチビの姿に杏奈を映していたからだろう。
もう誰にも取られたくないとすら思ったのだ
そんな奴の横から手が勢いよく飛んできて
及川の頭はバシッと勢い良く強く叩かれた
「 クソカワのモノなんかになるかよ 」
「 岩ちゃん!痛いってば
また俺の顔に激しく嫉妬しちゃって! 」
「 美雨がお前みたいな奴選ぶかよ 」
みんなは慣れている光景なのかスルー気味だ
しかし俺はと言うと岩泉の行動に感謝した。
及川の事ぶっ叩いてくれてありがとうってな
「 じゃあ私はそろそろ部屋に帰りますね 」
おチビが席を立ち上がりながらそう言った
今までおチビに対して何の声も掛けなかった
俺だったが思わず咄嗟に彼女に声を掛けた。
「 おい、チビすけ
着替えた後でいいから俺の部屋まで来い 」
「 はい … 」
「 黒尾!お前なあ──!
早速美雨を部屋に連れ込むのかよ、ずりい! 」
「 早い者勝ちなんですゥ
それにいやらしい事する訳じゃねぇし 」
一瞬ゲッて顔をしたおチビは小さく返事した
俺はあいつに嫌われてるだろうから当然か。
軽く会釈をして自分の部屋へと歩いて行った
本当にいやらしい事をしたい訳ではなかった
ただ今日は今だけは他の奴らから遠ざけたい
それだけの理由で俺は部屋に呼んだだけだ。