第1章 憂鬱王子はキスをくれない.
また突然不意打ちに彼女を思い出してしまう
いつも同じ黒いTシャツばかり着ていた俺が
何でだったか、白いTシャツを着ていた時に
杏奈が似合わないって俺を見て爆笑したんだ
なんでこう杏奈の事を思い出しちゃうかね …
思い出したくなんてないのに思い出しちまう
まだ鮮明に彼女の笑顔が頭に残っているんだ
似合わない白を身に纏いながら深いため息
ベルを押してスタッフが来るのを1人待った
「 柴崎さんの彼氏さんなんですか? 」
俺を撮影スタジオへ案内をしてくれている
スタッフにそんな事を尋ねられてしまった。
まあ彼氏だと勘違いされても仕方ねえのか
「 いや、陽葵とはまあ … 友達ですかね 」
一緒に暮らしてて住人とメイドなんだとは
流石に言い辛いので友達だとはぐらかした
「 そうなんですね!
さっき柴崎さんの方も覗いてきましたが
ドレス姿、本当に綺麗で似合ってました! 」
「 そりゃあ楽しみっすね … 」
楽しみだなんて心にもない事を言ってしまう
今は杏奈の事を思い出してブルーだっつうの
そういや俺、プロポーズする予定だったんだ
こっそりサイズ測って指輪だって買ったのだ
給料3ヶ月分 … 買った後に別れちまったから
お金は無くなるわ、彼女は居なくなるわで
別れた直後は気分が最悪だったのを思い出す