第1章 憂鬱王子はキスをくれない.
おチビが部屋を出て行き少し経った頃
喉が渇いたのでリビングへと降りて行く
冷蔵庫の中を1人で静かに漁っていると
背後から俺の事を呼ぶ声が聞こえてきた
「 クロりんってばお盛ん!」
その声の主に苦笑いしながら振り返ると
ヘラヘラしながら笑っている及川が居た
「 クロりんってのやめろっつ─の 」
「 可愛いしいいじゃん!
にしても文句言ってたくせに美雨ちゃんの事
珍しくえらく気に入ってるみたいだね?? 」
「 気に入ってねえし 」
睨みながらぶっきらぼうにそう答えながら
冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出す
俺があいつの事を気に入ってるなんて
どこをどう見ればそうゆう解釈するんだよ …
及川にただ呆れながら渇いていた喉を潤した
「 杏奈ちゃんの事、吹っ切れそうだね 」
及川の発した言葉に俺の耳はピタリと止まる
杏奈 … 何度も忘れたいと思っていた名前だ
「 なんで杏奈が出てくんだよ 」
杏奈は1年前まで付き合っていた元彼女
彼女とは1年間珍しく健全に付き合っていた
杏奈はこの家にもよく遊びに来ていたから
当然、及川然り住人達もみんな知っている
当時から女遊びが激しかった俺を変えた人物
正直言えば彼女の存在を大切に想っていたし
そろそろプロポーズでもしようかと思ってた
それなのに俺達はある事をきっかけに別れた
「 俺に隠したって無駄なんだからね?!
ずっと心の中で引きずってたんでしょ? 」
俺が杏奈の事を引きずっていた … か
確かに及川が言っている通り引きずっていた
でもそんなのかっこ悪くて平然を装っていた
実際は早く忘れたくて杏奈と付き合い出して
治っていた女遊びが再発してしまっていた。
── 所詮これが現実
及川にはバレちまっていたのかと深いため息
「 別れたばっかの時はそうだったかもな 」
「 またまたあ─!
正直まだ杏奈ちゃんを想ってるでしょ? 」
「 バカ、想ってねえよ 」
「 じゃあやっぱり美雨ちゃんがお気に入り? 」
杏奈とおチビじゃ似ても似つかねえだろ …
ちょっとちょっかいかけて苛めただけで
なんで好きとかお気に入りになっちまうんだ
「 お気に入りじゃねえって 」
ただし苛め甲斐があってそれが面白いだけだ
ただ本当にそれだけの気持ちでしかない筈で