第1章 憂鬱王子はキスをくれない.
会社に着くと俺は大量の仕事に追われていた
入社当時は扱うのが苦手だったパソコンも
今では誰よりもスムーズに扱える様になった
「 コーヒー淹れたけど黒尾も飲む? 」
「 ああ、うん 」
俺に声を掛けたのは同期である桜井莉子だ
桜井からコーヒーを受け取り一休みする
掠れた目をこすりながら天を仰いでいると
頭上から桜井が俺の顔を覗き込んでいた
「 お疲れみたいだね 」
「 まあね …
ってかお前いつもと雰囲気違うくないか? 」
桜井がいつもと雰囲気が違う事に気がつく
いつもは化粧っ気もなくスカートも履かない
なのに今日は化粧をしスカートを履いている
「 何?お前もとうとう女に目覚めたかァ? 」
「 女に目覚めたって …
私だって元々女なんだし普通の事でしょ?
まあ今日デートだから気合いは入れたけど 」
「 へえ─ … デートねえ
そいつとは上手くいきそうなわけ? 」
桜井は隣の椅子に腰掛け顔を赤くしながら
コーヒーを口に含みながら首を縦に降った
いつもは男っぽい桜井が女の顔をしていた
好きな奴の前ではこんな顔したりするのか
そう思いながらニヤニヤしながら見ていた
「 何その変態みたいな顔は … 」
「 桜井も女だったんだと思って 」
「 失礼な!
私の事は置いといて黒尾は最近どうなの? 」
「 俺?ん─別に何にもねえけど 」
「 総務の大野さんからの告白の返事は? 」
桜井からそれを言われてふと思い出した
そういや先週、総務の子から告白されたんだ
忙しかったしうっかり返事すんの忘れてたわ
「 忘れてた 」
「 あんたね …
返事くらいはちゃんとしてあげなさいよ? 」
「 つかさ分かるんじゃない?
返事なかったら脈ないんだな─って 」
「 そうだけど …
ちゃんと返事貰えたら諦めつくでしょ?
それに大野さんはまだ新入社員で若いんだし
恋愛経験だって私達よりも少ないんだからさ
ちゃんとしてあげなきゃ分からないかもよ 」
めんどくせえなと思いつつ深いため息を吐く
なんで社内恋愛なんてしようと思うのかね …