第1章 憂鬱王子はキスをくれない.
赤ワインを飲んだ事すらないおこちゃまに
及川がドヤ顔をして詰め寄る姿が目に入る
またあいつの赤ワイン語りが始まりそうだ
目を細めながら見ていると予感は的中した
「 このワインは比較的飲みやすいよ
ブラックベリーやワイルドベリーのような
アロマと少しだけピリッとしたハーブ香が
幾層にも広がって味わい深いワインだよ! 」
及川の話を聞いて飲んで見たくなったのか
ワイングラスにゆっくり唇をつけ飲み始めた
美味しいのかグラスの赤ワイン一気に飲んだ
こいつ初めて飲むのに一気とか馬鹿なのか?
おこちゃまは酒の飲み方も分かっていない
こんな短い時間に2回も呆れる事あるかよ
「 美味しいっ! 」
「 でしょ!?
たくさんあるから飲んじゃって良いよ
美雨ちゃんも大人の階段登っちゃったね 」
及川は煽る様な事を言いながら笑っている
例えこのままおチビが酔い潰れたとしても
俺は絶対に面倒なんか見ねえと思いながら
2人がするやりとりを密かに聞いていたら
澤村が不思議そうな顔しておチビに尋ねた
「 なあ さっき言ってたけど
美雨はどうして及川なんかに拾われたんだ? 」
「 澤村っち微妙に貶してる?! 」
おチビは言い辛いのか神妙な顔をしながらも
ポツリ、ポツリと拾われた経緯を話し始めた
── 何か深刻な事情でも抱えてんのか … ?
「 実は会社をクビになってしまい …
住んでいた社員寮を追い出されてしまって
仕事も家も同時に失ってしまったんです …
お恥ずかしい話なんですが貯金も無くて …
途方に暮れていた所を助けてもらいました 」
俺は理由を聞いて拍子抜けした気分であった
なんだ、深刻な事情でもなんでもねえじゃん
本人は恥ずかしいのか両手で顔を覆っている
呆れていると澤村は優しい言葉をかけ始めた
「 何か大変だったんだな
ある意味及川に拾って貰えて良かったよ
ここなら寝るのも食うのも困らないしな! 」
向かいに座る東側の住人達はみんな笑顔で
澤村の言葉にただ共感する様に頷いていた
おチビに対して同情しているみたいだったが
俺はイマイチ同情する気になれず口を開いた