第1章 憂鬱王子はキスをくれない.
黒尾鉄朗 side.
その日 俺は猛烈に忙しかった事もあってか
体が疲れていて機嫌があまり良くはなかった
いつも通りに帰宅すると陽葵が笑顔を向けた
「 鉄くん、おかえりなさい 」
── 本当、こいつって分かりやすいな
深い溜息をつきながらテーブルに目をやる
なんだ今日は魚じゃないのかよと小さく落胆
俺の視界に入ってきたのはでかいハンバーグ
しかも、なんか形がやたらと歪じゃねえか?
「 なんだ今日はハンバーグかよ
しかも俺のはなんでこんな形が歪なんだよ 」
「 それは美雨ちゃんが作ったんだよ 」
陽葵がそう言って違う方向を指差していた
チラリと目をやるとそこに冴えない女が1人
小さくて垢抜けない顔でそれに色気もねえ …
俺に見られているせいか硬直しちまってるし
「 なんだこの小学生みたいなチビは 」
── 小学生みたいなチビ
これが俺が彼女に抱いた最初の印象であった
俺がそう言い放った瞬間に眉がピクリと動く
きっとなんて嫌な奴なんだ!とか思ってそう
「 美雨ちゃんは新しい世話係だよ 」
「 ふうん … 新入りか
及川お前がこのおチビを採用したのか? 」
丁度リビングへとやって来た及川に尋ねた
及川はヘラヘラしながら俺の質問に答える
「 そうだよ──!
美雨ちゃんが可哀想だったから拾って来たの
俺って本当に優しくて親切な男でしょ?! 」
「 お前さあ
拾うならもっと色気ある奴を拾えよな
こんな幼児体形の女拾ってどうすんだよ 」
俺はきつく睨みながら及川の元へと詰め寄る
いくら及川と仲が良いとは言えセンスを疑う
メイドたるもの容姿が良いに越した事がない
なんでこんな平凡な幼児女なんて雇ったのか
俺には及川の行動や言動が理解不能であった
仕事なんてもんは出来なくても構わないから
目の保養になる様なセクシーな女が良かった