第1章 憂鬱王子はキスをくれない.
「 諦めるのが普通なんじゃ … 」
及川さんの顔を見つめながら私がそう言うと
彼は首を横に振りながら呆れた様に微笑んだ
「 1年半前にクロりんには彼女が居たよ
陽葵ちゃんはその時から彼の事が好きだった
彼女が居ても諦めたりはしなかったんだよ 」
黒尾さんの過去の話なんて私は知らなかった
そもそもその時に効果無しだと分かってた筈
だったら何故私に彼女のフリなんかさせる?
黒尾さんの行動がいまいち理解出来ずにいる
「 私に彼女のフリをさせる意味って … 」
「 クロりんじゃないと分からないよ?
でも俺個人の考えだと陽葵ちゃんにとって
美雨ちゃんは同僚であり身近な存在でしょ?
そこでクロりんが美雨ちゃんを選んだとなれば
普通に彼女が出来るより諦めつきそうだよね
選ばれなかった事はより明白なんだしね? 」
黒尾さんがもしそこまで考えているとすれば
ただの思い付きや軽率な行動ではないのかも
それなりに考えた事を行動に移したのだろう
「 もしくは …
実は美雨ちゃんの事が好きって線もあるよね 」
「 それは無いですよ!
私の事が好きだったらもっと優しい筈です 」
だって好きな人には良く思われたいでしょ?
だから優しくもするしカッコつけたりする
黒尾さんからは微塵もそんなの感じないもん
「 あながち間違いじゃないかもよ?
今朝、クロりんが自分で言ってた事って。
好きな女の子にわざと冷たくしてみたり
ちょっかいかけてしまうってくだりね! 」
それは幼少期の時なんかの話であって
流石に現在の恋愛観ではない様な気が …
言葉に出そうか迷ったがあえて口を紡いだ