第1章 憂鬱王子はキスをくれない.
20年間 男性とお付き合いすらした事がない
やっぱりこれだけ割りの良い仕事であるなら
それは避けては通れないものなのだろうか?
美味しい話には裏があるってこの事なのか …
── ど、どうしたら良いの?!
「 美雨ちゃん、顔色悪いけど大丈夫?
ここに住む人は個性豊かではあるけど
良い人ばかりだからきっと大丈夫だよ! 」
「 はい!大丈夫です 」
全くもって大丈夫なんかではなかったが
自分は処女だと打ち明けることは出来ずに
引きつった顔で笑って誤魔化すしかなかった
もしもHなしでこなす事が出来るのならば
私にとってこの仕事は好条件すぎる仕事だ
そもそも私の容姿なんてせいぜい中の下
こんな女に相手は欲情なんてしないだろう
だから上手く交わせば問題ないかもな …
「 はい!化粧は終わったけどどうかな? 」
目の前の鏡に目をやると私は驚いてしまう
鏡に映っているのが自分じゃないみたいだ
くるんと上がった睫毛に薄いピンクの頬紅
綺麗に整った眉に艶々でぷっくりとした唇
化粧を綺麗に丁寧にする事が出来れば
自分はこれだけマシになるのかと感心した
なんだか中の上くらいにはなれた気がする
「 美雨ちゃんは勿体無いと思う!
各パーツのバランスはとても良いんだから
ちゃんとその特徴を活かして化粧するだけで
こんなに綺麗で可愛らしくなれるんだよ? 」
「 陽葵ちゃんは化粧がお上手なんですね
自分の特徴を掴んだ上で化粧をするなんて
私にはどうにも出来そうもありませんよ … 」
「 化粧するのって要は慣れだよ!
コスメを集めるのも大好きで趣味なの!
好きなブランドの新作は毎回買うんだあ 」
陽葵ちゃんってキラキラした女の子だなあ
自分なんかとは大違いで同性とは思えない
私には化粧品なんて全部同じにしか見えない
だから20年間寂しく独り身なんだろう …
私も興味がアニメや漫画じゃなかったなら
面倒くさがりでガサツなんかじゃなかったら
きっと今頃は巷で流行りのインスタグラムに
お洒落な投稿するキラキラ女子だったかもな