第4章 ブロック④
「…わかりました。時間取らせてすいませんでした。天童、お前……先輩大事にしろよ」
どこまでも物分かりのいい後輩に辛い思いをさせてしまった。最後に精一杯の苦笑いを向けてくれた彼は、すぐに背を向けて校舎へと戻っていく。あんなに優しい子と付き合えたらきっと幸せだったんだろう。
―――それでも、私が選んだのは天童くんだった。
「……あいつ、しばらく俺にトス上げてくんないなぁ」
ボソっと天童くんは悲しそうに呟き、空を仰ぎ見る。
「あの子、セッター…なんだ?」
「…うん」
天童くんは私の目を見ない。さっきは目だけで私を殺せそうなほどジッと見ていたくせに。
「…ねえ、先輩」
「ん?」
「………さっきの、ほんと?」
眩しい太陽の光から目を守るように手の平を乗せて、空を見上げたままの天童くんが私に問い掛ける。
「……天童くんこそ、ほんと?」
全然こっちを見てくれないから少しだけ意地悪した。彼の質問には答えずに、質問で返してみる。
「……ほんと。こんな恥ずいこと嘘で言うわけないでしょ」
「じゃあ、こっち見て言ってよ」
我ながら、意地悪だと思う。それでも確認がしたかった。彼の想いを何度でも何度でも聞きたかった。
ハアーっと溜め息を吐いた天童くんは、ゆっくりとこちらを見る。ジロリと睨みつけられて私は身動きがとれなくなった。な、何……?私そんなに悪いこと言った…?
「………焦ったー…マジ心臓に悪い。取られると思った」
ゴクンと、私は唾を飲み込んだ。この子の言うことのほうが何倍も心臓に悪い。手のひらに汗が集中してくるのが分かる。インハイの時とは全く別の緊張。
「…緑川と、別れたんだね」
「……うん。最初からこうなる予定だったから」
天童くんの言ってる意味は全然分からないけれど、それは本人達の選んだ大事な選択肢であり、私が追及することじゃない気がした。彼は緑川と別れて私を選ぼうとしてくれてる。この事実だけで胸をいっぱいにしておきたい。
「なつみちゃんは可愛くてタイプだったよ。でも、好きかって聞かれたら、それも違う気がするんだ」