第4章 ブロック④
「……天童くん」
突然現れた私の想い人の後輩は背を向けていて、その表情が一切見えない。ただただその背中に懐かしさすら感じてしまう。今なんて言ったの?もう一度言って欲しい。デタラメでも嘘でもいい。私の聞き間違いでもいいからもう一度。
「…天童、お前は緑川さんと付き合ってるだろ。何言ってんだよ」
「あれ、知らないの?なつみちゃんとはとっくに別れたよ」
「………は?」
私に告白をしてくれた後輩の眉間に皺が寄る。天童くんを睨む彼からは先ほどの甘い空気は完全に抜けきっていた。
「…お前、蒼井先輩と緑川さん二股掛けてたのかよ。別れてすぐに蒼井先輩と付き合ってるって、そういうことじゃねーのか」
彼の整った顔が次第に歪んで、天童くんを更にキツイ表情で睨みつけている。そんな彼とは対照的に天童くんは落ち着いていて、溜め息を一つ吐いた。
「…違う。これから俺のものにする予定なの。だから英太クンとはライバルだネ」
「は?何言ってんだ、お前。いつも何考えてんだか分かんねーけど、いい加減にしろよ」
私は生まれて初めての『取り合われる』という状況に何もできないでいた。だってこんなの、どうしていいか分からない。ちょっと前まで中学生だった子達の会話と思えない。もはや別世界の出来事に感じ始め、他人事みたいに眺めることしかできない。
「…で、はるか先輩。英太クンと付き合う気だったの?流されちゃうもんね、先輩は」
天童くんがフッと笑いながら振り返って私を見つめた。全部分かってるくせに。なぜそんなこと聞くのだろう。いつもと変わらない、人を馬鹿にするような目。絶対的支配者の視線。私はこの子に逆らえない。
きっと、初めて会った日から、この目には逆らえない運命なのだ。
「……俺に流されてヨ。あの日みたいに」
天童くんにそう言われれば流されるしかない。それしか道は選べない。…でも、それでいいと思えた。
「…ごめんね、気持ちは嬉しい。けど、私、天童くんが好きみたいなんだ」