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【ヒロアカ】Don't touch me.【轟】

第2章 Promise



私が戸惑いのあまり返答に困っていると轟くんは足を止めて、読めない表情のまま私の顔を覗き込んだ。

「嫌か?」
「そういうわけじゃない…けど」

朝はお母さんが学校まで送ってくれてるから。そう続けると轟くんは静かに視線を落とした。伏せられた睫毛が寂しそうに見えて罪悪感に苛まれる。悪いこと言ったかな…。

「帰りは今日みたいに一人なのか」
「あ、うん。お母さん働いてるからね」

そうか、じゃあ決まりだな。と勝手に決定して轟くんはまた歩き始めた。その時に見た横顔は冷たく悲しげに感じて、胸に小さな棘が刺さったような痛みを覚えた。

その後の電車では他愛のないことを話した。
電車は乗れるのか。帰りは空いてるし触れられなければ大丈夫。入学試験どうだった?余裕だった。私は一般だけど結構ギリギリだったよ、緑谷くんと麗日さんと一緒だったんだ。

そんななんてことない会話が新鮮で轟くんって普通に喋るんだな、なんて失礼な事を思ってしまう。まさか轟くんとこうして帰ることになるとは…ミーハーな母が知ったら大騒ぎして飛び跳ねそう。母の姿を思い浮かべて苦笑した。

「綿世、ワタ出てるぞ」
「ふえっ!わっ、わ…」
「悪ィ、触っちまったか」
「ち、違うの。たまに無意識にでちゃうんだ」

頬からほろりと落ちたピンポン玉大の綿を吊り革を持つ手と反対の手で受け止めて渡される。私は慌ててそれをつまみ取り鞄のポケットに押し込んだ。
気が緩んだのだろうか。とにかく恥ずかしいことに変わりはない。個性が勝手に出てしまうなんて子供みたいで。

父が異形型でもっこもこの羊男だったから私も子供の頃は真似をして常に綿を身に纏っていた。今でも綿に包まれている方が落ち着くんだ。
医師には、もしかしたら貴女は異形型寄りで綿を纏っている方が本来の姿なのかも、って言われた。

他の乗客に見られていないか平静を装いつつ確認すると、皆携帯を弄ったり本を読んだりしていて視線は感じられず、ほっと安堵する。

会話が途切れるとそこからは特に話題も見つからず、静寂を保ったまま帰路についた。会話無く過ごす時間というものは気まずいことこの上なかった。轟くんの家は私の家の先だ。つまり家に着くまで一緒…。

轟くんは私の気も知らず、なんだか怖い目をして歩いている。何を考えてるのだろう。ちょっと憂鬱な気持ちをぶら下げて早足で歩いた。
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