• テキストサイズ

【ヒロアカ】Don't touch me.【轟】

第10章 Infatuate



轟くんはロールケーキのてっぺんを飾る苺に迷わずフォークを刺す。
苺、先に食べる派なんだなぁーと思いながら笑みを零すと、苺のくっついたフォークは私の口元に差し出された。

「食うか?好きだろ」

素っ頓狂な声を上げてしまうのも仕方ないと思う。だって平和の象徴さながら頂点に立つ、たった一つの苺だよ?クリームの苺は別として。

「好きだけど…んむっ!?」

お断りしようと口を開いたら丸ごと押し込まれてしまった。
反射的にもぐもぐと咀嚼したのは言うまでもなく。
轟くんの苺はあっという間に噛み潰され、私の喉を下っていった。

「うまいか」
「ん、おいしい…です」

困ったことに轟くんは人の話聞かないところがある。けれど、何気ないことを覚えていてくれたのは嬉しかった。

「ありがとう。でも、よかったの?」
「いい。綿世にやろうと思ってこれにしたからな」
「えっそれでさっき即答だったの?あ、じゃ私のケーキ食べて」

どうぞ、とお皿ごと差し出したけれど、轟くんはフォークを動かす気配がない。何かと思えば口を開けて待っていた。
鳥の雛みたいだなんて微笑んで、ケーキを一口乗せたフォークを轟くんの口に運んだ。

無防備に開けられた唇が閉じられる。
やがて彼は「うまいな」と零して目を細めた。

私達の一連のやり取りを眺めていた双眸が丸く見開かれる。そしてまるで何かを悟ったみたいにうんうん頷いた。

「いやー、そっか、そういうことか。うん、ご馳走様です」
「え?」
「ううん。焦凍は随分まりちゃんに気を許してるんだなと。いつもありがとうね」
「あ…いえ。私の方がお礼を言わないといけないです。助けられてばかりで」

冬美さんは口元を緩めるとまたケーキを頬張った。それから、学校のことや、轟くんの様子を聞かれた。

入学当初と今では随分変わったと感じる。休み時間クラスメイトと話すことが多くなったし、路地裏の一件で緑谷くんと飯田くんと一緒にいることも増えた。


轟くんの学校での様子を話したら冬美さんは瞳を揺らして、それからどこか嬉しそうに轟くんを見つめていた。

/ 129ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp