第3章 Declaration
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店内は夕方故に賑わっていて、入ってすぐの目に付く所で苺が広告の品として並べられていた。普段より安かったからつい手を伸ばしてカゴに入れてしまう。
いくつかは朝食のパンケーキに、残りはそのまま、練乳も用意してお母さんと食べよう。きっと喜ぶ。今度お母さんの作ったショートケーキが食べたいな。
小さく笑うと轟くんは私と苺を見比べて不思議そうな顔をした。
「ん?」
「いや。苺、好きなのか」
「えっ!すごい。そうだよ。よくわかったね!」
野菜を選びながら、なぜわかったのか問うと、顔に書いてあったと言われる。
「綿世はよく笑うな」
「へへ、なんでだろうね。轟くんと帰るの楽しいからかな。意外と怖くなかった」
黙ってしまった轟くんに首を傾げつつ野菜を選び終え、鮮魚コーナーに進んだ。そこでも母と私が食べる分だけ選んでカゴに入れる。続いては目当ての鶏肉だ。
「綿世が料理するのか」
「ん、そうだよ。うちお母さん帰り遅いからね。前はお兄ちゃんが料理してたんだけど、社会人になって出てってからは私がやってるよ」
「兄弟いたのか」
「うん!じゃあレジ行くね」
轟くんは家族の話題に触れると怖い顔するんだ。前にお父さんの事聞いたらとんでもない地雷だった。だから早々に切り上げてレジに向かった。
てっきり轟くんは出口で待つのかと思っていたけど、レジまで着いてきて会計が終わるのを見守っていた。
台で袋詰めをしているときもじっと手元を見つめられ、変に緊張してしまう。見られてると何故かやりづらいのなんでだろ。
いつもよりぎこちない動作で品物を袋に詰める。
詰め終えると轟くんが横から荷物を持ち上げて店を出ようとするから、私はその慣れた動きに目を丸くした。
「わ、待って!私持てるからいいよ!」
「家まで持ってく」
「いいって!悪いよ。付き合わせちゃったし…申し訳ないよ」
「……許せねぇんだ、自分が。─だから、何でもいいから、お前を…」
その続きを待っても答えは得られない。固く握られた拳を見て、問いかけるのをやめた。
轟くんは何を抱えているのだろう。何故私に構うのだろう。私と彼の間に何か思い詰めるような事があっただろうか。
浮かぶ疑問は私の胸の中に留まったまま。夕日が静かに私達の影を伸ばしていた。