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インモラル・リフレクソロジー【R18】

第1章 イランイラン


「このオイルは特別にブレンドしました」

彼の掌に溢れ、零れるオイル。

「ベースはシダーウッド。
リードディフューザーとしてこの部屋にも置いています」

彼の視線の先。
ラタンのチェストの上、木製の細いスティックが差し込まれた焦茶のボトル。

「そして、イランイラン。
強いオイルですが、あちらはアルコールで薄められて自然に揮発するので、ちょうどいいでしょう?
でも、こちらは……違う」

目の前で脚を開いて、欲しがる女を。
彼は少しも気にせずに話し続ける。

「イランイランを多めにしています。
稀釈用のアルコールも少なめです」

いくつかのオイルとその分量。
それをまるで唄うように呟く彼。
わからない言葉なのにそれは耳障りでは無くて。
変わらずに片手を脚に触れたまま彼はベッドサイドを歩く。

呪文のように静かに。
儀式のように厳かに。
供物の台に置かれた生贄を見る神官のように、私を見下ろす彼の瞳は冷めてゆく。
その掌の上のオイルが、彼が一歩一歩近付いてくるたびにより強い芳香を放つのとは逆に。

「イランイランは熱帯の雨の多い地域で育ちます。
だから、こうして掌の熱であたたまって放つ強い芳香があの花にいちばん相応しい。
良い香りでしょう?」

愛おしむような声音。
彼は掌の上のオイルを私に見せる。
そして彼は冷静に片手を私の施術着にかける。
バリの民族衣装に似た施術着。
巻き付けるだけのスカートのような布だけはなぜか短くて、どちらかと言うとパレオのようだと思ったけれど、それが簡単に解かれた。

え……何を……?

「イランイランは……ある特別な薬にも使われるんですよ」

戸惑いは、彼の言葉が打ち消した。
さっきまでのまるで私のことなんて物のようにただ呟いていた言葉が、急にはっきりと私に向けられたから。

「薬?」

下着に手をかけた彼がそれを脚から抜き取った。

「ええ。媚薬です」

「び……やく」

「そう。
イランイランにはね、催淫作用があるんです」

媚薬。催淫。
彼の唇からそんな言葉が漏れるのはどこか不似合いな気がしたけれど、言われてみればそれ以上似つかわしい言葉は思いつかなかった。

その、濃密な……甘い香りに。



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