第4章 途方もない悪意
「全員バスに乗り込みたまえ!」
学級委員長______飯田天哉は、クラスメイト達にそう告げた。 次々にバスへ乗り込み、後の方にいた舞依は最後に乗り込んだ。 1年A組は、救助訓練へ向かう最中であった。
(空いてる席は……あ、)
きょろきょろと見回すと、確かに轟の隣が空いていた。
(失礼します……)
轟は目を瞑って寝ているようだ。 邪魔にならぬよう、静に椅子に座る。
「お」
「あ」
声がした轟の方を見ると、彼は目を開けていた。
「起こしちゃった? ごめん……」
「いや、寝てたわけじゃねえ。 寝ようとしてた、けど」
「ごめん……」
「いや、俺が勝手に目ぇ開けただけだ」
そう言うと、轟はまた目を閉じた。 それに重なりバスが走り出す。 コスチュームを纏った舞依の体が、わくわくした思いで少しだけ震えた。
「緑谷ちゃん……私、思ったこと何でも言っちゃうの」
「な、何? 蛙吹さん」
「梅雨ちゃんと呼んで。 ……貴方の“個性”、オールマイトに似てる」
「へっ!?」
バスの中、蛙吹と緑谷の会話が耳に入った。 緑谷は慌てている。
「ケロ……舞依ちゃん」
そこでまさかの舞依に話が振られた。
「梅雨ちゃん……?」
「貴女、何か悩んでるんじゃないの?」
「!」
その蛙吹の発言で、その場の空気が凍りついた。 轟は左目を少しだけ開き、舞依を見た。 確かに彼女には誰にも言えぬ悩みがあった。 ドクドクと脈を打つ心臓を忌々しく思いながら、舞依は口を開いた。
「な、何も……」
「ケロ……私の考えすぎかしら? ごめんなさい」
舞依はこくこくと頷いた。 蛙吹はまた周りと話し始めた。 いつの間にか、凍りついた空気は元に戻っていた。
「……」
事の成り行きを見守っていた轟は、また静かに目を閉じた。
(梅雨ちゃん……私のこと、心配してくれてるんだ)
個性把握テストの際、おかしな態度を取った舞依のことを、蛙吹は密かに気にかけていた。 それを今更になって知った彼女は、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。 舞依は膝に置いた手をぎゅっと握る。
(後でしっかり謝ろう)
そう、胸に誓って。