第1章 情事に至るまでの5つの場面
「この間、君が勧めてくれたリストランテは良かったよ」
「お気に召していただけたなら何よりです」
「どうかね。今度一緒に食事でも」
「そんな……私には勿体無いお誘いです」
「いやいや、君とはこれからも懇意にしたいからね」
あ の ク ソ オ ヤ ジ 。
下心が見え見えで呆れを通り越して怒りを覚えた。広間とバルコニーを仕切っている窓に思わず手を掛けると、運が良いのか悪いのか、沢田綱吉が氷雨に声をかけて他の客人のもとへと移動していく。クソオヤジは残念そうな顔をしていたが沢田綱吉に文句を言うわけにもいかなかったようだ。ざまあみろ。移動した先で氷雨はどっかの婦人の話し相手になっていた。窓ガラスから手を離す。こんなもの一枚が何を隔てているんだろうとは思うが、実際オレがいる場所と氷雨がいる場所は相容れない位置にある。あいつの肩を抱き寄せて「オレの女に何してんだよ」と睨みつけることすら、してはいけない。
氷雨は一生オレのものにならない。
今あそこにいる氷雨はボンゴレの一員としての氷雨でしかなくて、そこにオレが介在する余地はない。
ああ、見事に蚊帳の外だな。