第1章 情事に至るまでの5つの場面
【映画を見てムラムラして】
「なに見てんの」
「んーなんかの映画?テレビつけたらやってた」
「ふーん」
シャワーを浴びて部屋に戻ってくると、パジャマ姿の氷雨はソファに座ってテレビを見ていた。「消していい?」と聞いたら「見てるからダメ」と言われる。あっそ。仕方がないので氷雨の隣に腰を下ろしてオレも映画鑑賞と勤しんでみる。
けど、オレって小説とか読まねーんだよね。恋愛小説なら尚更だし少女漫画とか手に取ったこともない。まあつまり言いたいのは、この映画はラブロマンスっぽくて、とってもオレの肌には合わないってゆーこと。
「なあ、これおもしろい?」
「んー、普通じゃない?」
「オレあんま好きじゃない」
「そっかー。でも一度見始めるとラスト気になっちゃうよね」
遠回しにテレビを消すなと言われた気がする。というか言われた。ちょっとイラっときたから、氷雨の肩に腕を回して抱き寄せると、こてんと頭をオレの肩に預けてきた。ちくしょー、かわいい。相変わらず視線はテレビに向けられてるけどな。
それから、見たくもない映画を見ていると終盤で所謂ベッドシーンが始まった。まあ、ありがちな展開。つーか、この女優下手だな。全然喘いでるように聞こえねー。氷雨の声を一回聞かしてやりたいね。……って、あ、やべ。
「ね、氷雨。チャンネル変えちゃだめ?」
「だめ」
取り付く島もねーな、おい。氷雨は熱心にテレビを見ている。
さっきヒロインの女優と氷雨を重ねて考えてしまったオレには、もうその女優がキスだの何だのするたびに氷雨の顔しか浮かんでこない。しかも、ほら、さっきまで事に及んでたからさ?妙に生々しいってゆーか、真新しい記憶ばっかなわけ。おまけに氷雨はオレの腕の中。これでムラムラ来ないわけがない。
シャンプーの香りが鼻につく。柔らかくてあったかい身体はオレにしなだれかかっている。映画は知らないうちにまたベッドシーンに入っていた。鼓膜を震わすのは女優の声のはずなのに、オレの頭の中では氷雨の声が再生される。泣きそうになりながらもオレが欲しいと求める声だ。