第1章 情事に至るまでの5つの場面
「ふ、……やっ、ん」
あああ、やってしまった。ほんのすこしだけ離れたベルの唇を追いかけてしまうなんて。しかもイヤなんて口走ってしまうなんて。
離れかけた唇はすぐに戻ってきて、また私の唇に吸い付いた。熱い舌が口内に入ってくる。けど、今度はさっきみたいに暴れてくれない。舌先で優しく私の舌をつついてくる様は、まるで「おいでおいで」と私を呼んでいるみたいだ。だめ、ここでついていってしまったら、この男の思う壺。朦朧とする頭で必死に考える。そうして私が躊躇していると、意地悪な唇はまた離れていこうとした。あ、やだ。離れちゃ、やだ。思わずベルの服をぎゅっと握ってしまう。
「ん、……や」
「ちゃんとやるから、息吸え」
「は、ぁっ」
私は呼吸を忘れていたらしい。どうりで意識が朦朧とするわけである。言われた通りに何度か息を吸って吐いてを繰り返すと、少し頭がクリアになった気がした。
私が呼吸したことを確認すると、ベルはまた唇を重ねてくれる。もう彼の思う壺でもなんでも良かった。相変わらず私を呼ぶだけの舌に、自分から舌を絡ませる。ついていくから、いっぱい頂戴。肩を掴んでいたはずのベルの手はいつの間にか腰と背中に回されていた。私もベルの背中に両腕を回して抱きつく。ようやく彼の舌もやる気になったようで、縋り付く私に寄り添ってきてくれた。
きもちいい。
そう思ってしまったから、負けだった。
散々ディープキスをしてから唇を離すと、名残惜しそうに銀色の糸が二人の唇を繋ぎ、ぷつんと切れる。とろんとした瞳でベルの顔を見上げると、とても満足そうに笑っていた。勝者の笑みだ。
「その気になったろ」
「……、なった」
「うしし、じゃー入ろっか」
軽々と抱き上げられて、バスルームに連行される。次こそは誘惑に負けないんだから、と私はもう数えきれないほど唱えてきた戒めの言葉を今日もまた同じように心中で唱えるのだった。
【何と無く雰囲気で】