第1章 情事に至るまでの5つの場面
【何と無く雰囲気で】
「よ、おつかれ」
任務が終わってアジトの自室に戻ると、ベルがベッドの上でゲームをやっていた。いや、ここ私の部屋なんだけどね。という突っ込みを入れるのは15年前から諦めている。
「お疲れ。帰ってたんだ?」
「さっきな。おまえももうちょっとで来るかなーと思って」
「そう、待っててくれてありがとう」
「どーいたしまして」
会話はするもののベルの視線はゲームに釘付け。なんだかなー、と思いつつ隊服のコートをハンガーにかける。とりあえずお風呂入りたい。
「シャワー浴びてくるね」
「んー、待て」
「なんで?」
「もうちょい。……よし、セーブ」
ベルはゲーム機から目を離すと、私を見てにやりと笑った。あ、これやばい。そう思ったときには、もう遅くて、歩み寄ってきたベルにぎゅうと抱きしめられる。ベルは私に顔を寄せてまた笑う。
さっき帰ってきたって言ってたっけ。血の匂いがする。
「一緒に入ろーぜ。オレもシャワーまだだし」
「や、お風呂ゆっくり浸かりたいんだけど」
「まじ?じゃあゆっくりやれんじゃん」
「疲れをとりたいんだよ私は」
「運動して寝れば疲れもよくとれるって」
「そんな屁理屈言っ、んっ」
急に肩を掴まれて身体が離れたかと思えば、黙れと言わんばかりに唇を塞がれた。ついでに舌まで入れてくるから、私はもう抗議するどころではない。ザラザラしたそれは口内を余すところなく蹂躙しつくして、逃げまどう私の舌を捕らえるとねっとりと舐めあげたり絡ませたりを繰り返す。5日ぶりの濃厚なキスはいとも簡単に私の思考を蕩けさせた。身体から徐々に力が抜けていくと、ベルの唇は私から離れようとする。