第1章 情事に至るまでの5つの場面
ジグソーパズルと似たようなもんだよ。オレのピースは最初っから歪んでるから、フツーのピースとは嵌まんない。氷雨のピースはやっぱり歪んでてフツーじゃないからなんとか嵌まるわけ。けど、ぴったりじゃない。ぴったりじゃないから軋んで、それが傷になるんだ。
ノックをしてから、ルッスーリアの部屋のドアを開く。氷雨はちゃんとそこにいて、起きてた。
「……すげーピンク」
「言わないで……ルッスが貸してくれたの」
ビビッドピンクのワンピースは一目で氷雨が選んだもんじゃないとわかったけど、まさかのオカマか。なんであいつ氷雨のサイズの服なんて持ってんだ。
結構緊張してたつもりだったけど、氷雨の姿を見るなりちょっと肩の力が抜けてしまった。でも、まだ氷雨に近寄るのは憚られてオレは閉めたドアに寄りかかって話をする。
「平気なのかよ」
「うん、おかげさまで。傷ひとつないよ」
「そっか。……よかっ、た」
心底ほっとする。マジでよかった。見た感じでも傷は残ってなさそうだし顔色も悪くない。そこにいるのは、オレがいつも見ている氷雨だ。夜の闇よりもっと黒い瞳がオレをとらえて、じっと見つめてくる。いつもだったら嬉しくて口許が緩むのに今日ばっかりはその視線もなんだかオレを咎めているように感じられて思わず視線を逸らした。それはもう、あからさまに。沈黙。
嫌な沈黙を破ったのは、くすっと笑う氷雨の声だった。一瞬頭が真っ白になる。なんで笑えんだよ、おい。
「ふふっ、あー、いつものベルだ」
「どーいう意味だ」
「だって別人みたいに襲ってくるんだもん。遂に頭イっちゃったかなーと思った」
「遂にって、おまえな……っ!?」
ちょっとカチーンと来て視線を戻そうとすると、氷雨はいつの間にかオレの目の前まで来ていてすげー意地の悪い顔で笑ってた。ちくしょ、気配に気づかなかったとかありえねー。細くて白い指がオレの頬に触れる。一瞬ドキッとして、さっき見た氷雨の姿がフラッシュバックして、怖くなった。なあ、オレどうやってこの手首を縛り上げたの。もしかしなくても痛かったろ。なあ、なんでこんな簡単におまえから触ってこれんの。なあ。
「まだ泣いてほしい?」
「なん、だよそれ」
「あ、覚えてないんだ?私に泣き叫ばせたいって言ったの」