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アンハッピーエンド主義

第1章 情事に至るまでの5つの場面


――ガリッ

嫌な音を立ててベルは私の唇を噛みきった。予期していなかった痛みに驚いて唇を離そうとしたが、ベルの唇がそれを許してはくれない。血が滲んでいるであろう傷の部分を、わざと舌でグリグリと弄くられる。刺すような痛みを感じて、思わず肩が跳ねた。
「痛っ……」
「自業自得だろ、淫乱女」
「な、」
「さすが場数を踏んでるだけあって男を誘うのは上手いね。それで何人喰ってきた?」
背筋が、震える。
唇を離して、私を見下ろしたベルは全然楽しくなさそうに笑っていて、皮肉を通り越し侮蔑を含んだ言葉を躊躇いもなく吐き捨てる。当たらずとも、遠からず。心の中の瘡蓋を無理やり剥がされて、じくじくと胸の内が痛みだす。「いや、」と私は初めて拒絶の言葉を口にした。初めてベルを本気で怖いと思った。このまま、なにもかもを踏みにじられて壊しつくされてしまうのではないか、という漠然とした恐怖。一番聞きたくない言葉たちを、一番好きな人の声で聞かされる。
「あぁ?誰にでも足開くくせに、よくゆーよ」
「ちが、う」
「オレじゃなくてもいいんだもんな」
「ちがう…っ」
「へえ?じゃあ大人しく抱かれてろよ。痛くしてやるから。ああ、痛くても感じるかもねおまえ。そーゆープレイも沢山したんだろ」
「したくて、したわけじゃ…っ」
「じゃあこれも仕事だと思えば?そしたら割りきれんじゃないの、おまえのことだから」
「なんで、そんなこと言うの…っ」
これ以上の侮蔑の言葉を聞きたくなくて両手で耳を塞いだ。全部作り話なら、なに言ってるんだろうで済むのに、ところどころに思い返したくもない事実を仕込まれて心の傷口が広げられていく。でも、ベルはとことん私を追い詰めたいようで、殺しのときに愛用しているワイヤーを取り出すと私の両手首を纏めて無理やり縛り上げた。必死に抵抗しても、腕力じゃ敵うはずがない。捕縛だけにとどまらず殺傷能力まで兼ね揃えたワイヤーは、私が腕を動かそうとしなくても勝手に肌に食い込んで真っ赤な血を滴らせる。抵抗の手段をひとつ失った。
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