第3章 ようこそ、お姫様
結局その後、城内に入って自己紹介をする事になった。
城内は、何もかもが大きいように感じて 逆に自分が小さくなったよう。
高級そうな絨毯を踏むのを 少し躊躇するけど、もう入った時点で踏んでしまっていた。
私が私じゃないみたいに、身分が変わったような気分になる。
そう考えている間に、私の自己紹介の番が回ってきていた。
「……えっ、と」
正直、一連の出来事が夢のようで、何から何を話せばいいのか分からない。
ここで全てを話したら、嫌われる?
今更な思い。彼らがそんな事しない、なんて どこから湧いて来たのか分からない信頼感。
まるで整理整頓されていない おもちゃ箱の中みたいに、ごちゃごちゃしている。
ゆっくり口を開くけれど、やっぱり言葉にならない声が漏れていく。
どうすればいいんだろう__
と、思った時だった。
私の後ろで、誰かが立ち止まった音がした。
「大丈夫、肩の力抜いて」
その人物の優しい声が、耳の奥底まで届く。
確か、名前は……そうだ。あの、不思議なモトキさん。
彼の声を聞くと、マッサージされているみたいに、ゆっくり心が和らいでいく。
やっぱり、不思議だ。だけど、今はその不思議さが私の助けとなっていた。
「私、は……慕加瀬恋奈です」
視線が集中する。
それは決して棘の入ったものではなくて、本当に真っ直ぐな、濁りすらない視線だった。
核心に迫っていくのは怖い。
でも、立ち止まってなんかいられない。
「能力を、持っています」
彼らの中にはいない、能力者。
それが今は独りぼっちのように思えて、キリキリと小さな痛みが心臓を蝕んでいく。
___やっぱり私は、弱い自分でしかないのかもしれない。
そう思った時だった。
徐に立ち上がったのは、シルクさん。
シルクさんは、私の目を真っ直ぐと見つめた。
私には、もう、彼らの表情を汲み取る力なんてない。
だけど、汲み取らなくても分かるように__例え、視界が真っ暗でも分かるように。
「良く言えたな」
と、彼は満面に笑顔を浮かべ 私の頭をくしゃくしゃと撫でたのだった。
……極めて雑だ。
だけど、そのどこかには、また何か彼らしい彼なりの思いが詰まっているような気がした。