• テキストサイズ

生贄のプリンセス【Fischer's】

第3章 ようこそ、お姫様


__彼らしいとか。彼なりだとか。
そんなものは曖昧でしかないし、私の主観でしかない。
だけど、その線があるからこそ 私は貴方に出会えて良かったと思うんだ。

一度、息を呑む。
二度、彼との視線を合わせる。
三度、私はまた話し始めた。


私が生贄になった理由、暗雲ができていた理由……
ウィズドム子の仕組み、そして彼らが能力を持っていたというのも聞いた。

私の思う能力者は、世間の〝フツウ〟の定義を押し付けられる。
私が見て来た能力者は大抵そうだったし、私だってそうだった。
母親には〝フツウでないのだから、能力を誰かに教えてはいけない〟と 言い聞かされていた。


「辛かったよね」

ンダホさんが、優しいような__悲しいような笑顔で言った。


……そうだ。
私は、普通に過ごせて、幸せで、楽しくて、こうやって他人を思いやれる余裕がある彼らが羨ましい。羨ましくて、仕方がないんだ。

それと同時に、憎たらしくもある。
その立場で、裕福に過ごせられる事が まるで未練の残った幽霊になったみたいに 憎たらしく思う。


今、感情をゴミ箱に捨てたら、どうなるだろう。
今、私を捨てたら、どうなるだろう。

「っ……あぁ…‼︎」

__あぁ、こうやって、涙が出るんだ。
悲しくも寂しくもない、感情さえこもらない濁りきった涙。
彼らみたいに、純粋でも裕福でもない私は 何だろう。誰だろう。

彼らは私と違う。私は彼らと違う。
ただその言葉を脳内で繰り返させていた。


すると、その言葉を遮るように ポンと肩に手が乗る。
私は、いつの間にかその感触を覚えていたらしい。
感じた事のないような安心感が、広がっていった。

この手は、きっと私を救う手。
確証も根拠も無いからこそ、私は貴方を信じられるんだ。

「言ったろ。
〝お前を助けてくれる場所〟だって」

私を助けてくれる場所。
気が付けば、周りに彼らがいた。
心配そうな顔で、彼らの手は私の背中に乗っていた。


私は助けられる。いや、助けられている。
信じようと心から思えたのは、久々な気がしてならなかった。
/ 56ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp