第9章 アデュー
「それじゃあ、無事に帰ってこれたのと、プリンセスの王子様も見つかったお祝いってことで!」
『乾杯!!』
わっとした熱気と共に、一気に騒がしくなる食卓。
テーブルの上には豪華な食事たちが並べられていて、思わずごくりと唾を飲み込む。
私たちの婚約───は少し早い気もするけど、その報せを聞いたメイドさんたちが張り切って作ってくれた。
こんなに食べれるのかな。
フォークを片手に固まっていると、
「うっま!!」
「ダホ、一気に食べるとお腹壊すよ」
横からそんなンダホとモトキのやりとりが聞こえてきた。
私とシルクが恋仲になったと知っても、皆いつも通りだ。
驚いてはいたし、祝福もしてくれているけど、本当はどう思っているんだろう。
いつか皆の想いも聞けたらいい。
私の人生を変えてくれた人たちであることは間違いないから。
今度は、私が皆の人生を変えられるようになりたい。
「俺の妻が黄昏てますよ〜みなさーん」
「ちょっと、うるさい」
私たちの掛け合いに皆も笑う。
相変わらず中身は変わらない。
たった一つ変わったことといえば、彼との〝仲間〟という一線を越えたということだと思う。
「ねえ、みんなで写真撮ろうよ!」
ぺけが意気揚々とカメラを取り出した。
〝いいね〜〟という言葉が飛び交って、皆 徐に席を立つ。
そういえば、出会った頃にも写真を撮った。
人魚柄のワンピースを着て、何となくぎこちなくて、でも、ちゃんと笑えていて。
あの写真は私の部屋にきちんと飾られている。
今でも私の宝物だ。
あの時の私は、まだ生贄だった。
「ほら、並んでー!」
まだ心は曇ったままだった。
「俺入りきるかなこれ」
けど、それも全部、彼らが変えてくれた。
「恋奈とシルクは真ん中!」
全部、ぜんぶ、皆がいてくれたから。
「恋奈、俺さ、お前のこと好きだわ」
全部、あなたがいてくれたから。
「…私も」
「いくよー!!」
ぺけがカメラのタイマーを押す。
あの時の自分に、生贄の自分に────
『せーの』
『アデュー!!』
長い別れを、告げた。
END