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生贄のプリンセス【Fischer's】

第2章 出会い


「あの暗雲、明らかに生贄の上にだけ出来てるぞ…
あいつに何か秘密があるんじゃないか?」

一人の言葉は百人の言葉へと化していく。
これが本当なのが、憎いところだ。

住民達は槍を持ち始める。
ここで生涯を終えるわけには、と思うけれど、体は一ミリも動きやしない。


ああ、やっぱり、死ぬ?


そう思った時だった。

「あぁあっ!!」
住民達の叫び声が聞こえ、ふわっと体が宙に浮く感覚で目を開けた。
……状況がうまく掴めない。

「この娘(こ)はもらってくぜ!
そんじゃ、せーのっアデュー!」
頭上から元気の良さそうな声が聞こえる。
心が安心するとか、そんなのは感じない。
だけど、ずっと聞いていても飽きないような……そんな声。

「え……?」
私が下を見ると、いつもはもっと近いはずの地面が、薄っすらとしか見えないほど遠い。

……助けられた?

そう思った途端、ドクンと心臓が大きな波を立て叫ぶ。
〝お前は 生きている〟と、まるで証明するように鳴り止まない心臓の大きな音。


首をきゅっと動かして、後方を確認する。
もう私の故郷は見えなくなっていた。

やっと、やっと脳が逃げられたのだと再認識した。

「大丈夫か?」

すると、頭上から声がする。
黒づくめの格好をして、フードを大きく被っている。
私を抱き抱えるように空を飛ぶ彼は、もちろん知らない。

言葉には形容しがたい声が漏れると、彼は微笑みながら私の頭を撫でてくれた。
安心の橙色は、少しずつ空っぽな心を埋めていく。


「……まあ、心配すんな!きっと、お前を助けてくれる場所だから」
彼はそう言って、今度はニカッと笑顔を見せた。
私を助けてくれる場所は、この世界にあるんだろうか。
それとも、この世界にあるから助けたんだろうか?

どっちだっていい。
どっちにしろ、私は生贄という荷物を投げ捨てたいだけ。


たくさんの考えを頭の中に巡らせていると、どうやらどこかの国に着いたようだった。

……ここは、まさか。
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