第7章 私の王子様
シルクside___
そんな理性を失ってぶち壊れた俺の思考は、次の二人の言葉でぴたりと止まった。
「今頃あの子は、村で人体実験でもされてるんじゃないかしら?」
様々な声が飛び交う中、ソアはわざと大きな声で言う。
イズカは、これから何が起こるかを想像して思わず笑ってしまった時のような顔をしていた。
「村で、人体実験…?」
俺の頭にはウィズドム子の事しか思いつかない。
そんくらいちっぽけな知性と理性しか残っていなかったけど、こいつらを逃がしてでも恋奈を助けなきゃいけないんだ。
モトキが俺を制御しようとしていた手を離す。
お前の判断に委ねると言われたような気がした。
「……絶対に逃がさねえからな。
どこへ行こうが、どこで何をしてようが、生きていようが、俺が必ず殺してやる」
決まってる。殺したい人より守りたい人を優先するのが当たり前だ。
殺気に満ちた目をしたのが自分でも分かったが、二人はその目にも怯まなかった。
「どうぞ、」
『殺しにいらっしゃい』
声を揃えてそう言い、満月が映る大きな窓から闇夜に消えていく。
何度もあいつらの不幸を願うより、何度も恋奈の笑顔を見ていた方がよっぽど素晴らしい人生を送れる事だろう。
「シルク、行こう」
じっと窓の方を睨んでいた俺に、モトキがそう言った。
他の二人も覚悟を決めたような顔をしている。
…恋奈を、絶対に助ける。
ごくりと飲んだ唾はひんやりとしていた。
月がこの世を照らし終える前に。この空気が陽で温められてしまう前に。恋奈を、絶対に助け出してやる。
「ああ」
俺は簡単な返事をして、三人にも俺の能力を分けた。
走って行くよりも断然、空を飛んだ方が早い。
俺は窓の淵に足をかける。
あの星に願いたいことは山ほどある。
でも、これ以上願ったら、欲に埋もれちまいそうだ。
だから一つだけ、願うとすれば
「待ってろよ、恋奈」
たった一人の姫と、この三人を連れて、生きて帰りたい。