第7章 私の王子様
シルクside___
「…どなたでしょう」
扉の奥で、にんまりとした笑顔の含んだ声が聞こえた。
俺らがここに来る事も予想してたんだろう。じゃなきゃ、今頃こいつらは国外にとっくに逃げてるはずだ。
この二人を、平然とした顔のまま生かすわけがねぇ。
「俺らだ。開けてくれ」
俺がそう言うと、案外扉はすんなりと開いた。
部屋には偶然───いや、必然的に、ソアとイズカ二人ともいた。
見分けがつかないくらいそっくりな姿が並んでいる。光のない三日月型の目に、計算された角度のお辞儀。からくり人形みたいだ。
「二人ともさ」
モトキが突拍子もなく、ただ空気に乗せた言葉をゆらりと、ゆっくりと発した。
「俺らの姫、返してくんない?」
姫を守りきれない王子なんて、童話にいるわけがねえのに。
それでもたった一人の大切な姫を守るために、何度も傷ついて、この両腕で姫を抱きしめてやりたいこの気持ちに勝るものなんて、一つもないんだよ。
一度じゃ守りきれないものは沢山ある。
でも、生涯かけて守りきらなきゃいけないものは、たった一つだけ。
「返すも何も、ねぇ…」
「もう……」
くすくすと笑い出し、夜の月に照らされた彼女達のシルエットは、真っ黒い影なような、そんな気がした。
「恋奈をどうして連れ去ったんだよ」
「…答えろ」
ぺけとダホが低い声でそう言う。
彼女達の目は相変わらず真っ黒だったけど、ねっとりと俺の視線に絡みつくような笑顔で、はっきりと言った。
「だって、邪魔だったんですもの」
その瞬間、俺の抑えていた感情が沸騰したお湯のようにぶわっと吹き出てきた。
「てんめえっ!!」
今までは台本通り、からくり人形の舞台のようだった。
俺は今、それをぶち壊しにきたただの乱入者。いっそ元に戻らなくていい。
所詮ここはからくり人形の舞台上、何を壊したって掌の上でころころと転がされてしまう。
ただひたすらに壊そうと思っても思っても思っても、何度それを唱えても届かない痛みは、空気に溶けて消えていくだけだ。
「シルク!駄目だよ!!」
「惨めな姿ね!いいわよ、どんどん殴りなさい?
どうせ私を殴ってもことは解決しないわ」
からかうような笑い声が耳に響く。
何をしても恋奈が危険な状態な事に変わりはないのに、俺の脳はとうの昔に理性を失っていた。