第6章 嘘
シルクside____
「すみません、お邪魔でしたか?」
ノックに対しての俺の返事が聞こえてから部屋に入ってきた、イズカの姉 ソア。
コーヒーを持った俺の手元に視線をやると、ソアは申し訳なさそうにそう言った。
ンダホに毎回邪魔されるこのティータイムの来客者なら、もう慣れたもんだ。
「いんや。それで?どうした?」
まだ飲むには熱すぎるコーヒーを、一旦置く。
突然来客してきたソア。よっぽどの事がない限り俺の部屋になんか来ないだろう。
俺は この間モトキのオススメで貰った本でも読むか、と、ソアの話に耳だけを傾けた。
「実は…恋奈様の事についてなんですが……」
あまりにも深刻な声で、恋奈の名前を出したからかもしれない。
俺は手を止めて、ついソアの方に目を向ける。
「恋奈が?」
俺は食い気味で聞いた。
一気に不安と心配が脳内を侵食していく。
恋奈にまた何かあったんじゃ───
「シルク様の事が好きじゃないと仰っていて…。」
……なんて言うか、それは予想外だった。
そのせいかショックは大きくて、ぽろっと落としてしまった割れ物が大きな音を立てて割れたような感じで。
いやいや、ありえねえって。
恋奈に限って、そんなこと。
「…は……?」
好きと感じたその分だけ。
俺はその言葉を信じこんでしまっていた。
「私も聞いてしまった時、びっくりしたんですけど……本当のことみたいで…」
「ふざけんなよ!!…恋奈が、そんなこと言うはずねえよ……」
怒ったところで、それはただのもがく自分。
だって彼女は俺のことを好きなわけじゃないし、そんな確証だってない。
なんで俺は、こんな自分勝手に怒ってんだよ。意味わかんねぇ。
むしゃくしゃして、脳も心もモヤモヤして、鬱陶しい。
俺は〝あいつに会ってくる〟と部屋を出ようとする。
でも、無造作に振った腕が、ソアの強い力でグッと止められた。
「あ、あの…今はやめた方がいいと思います。そんな感情的になっても解決できませんから……一旦落ち着いてください」
ソアにそう言われて、体がまるで風鈴の音でも聞いたかのように徐々に熱を放出していく。
俺が腕から力を抜かすと、彼女は〝じゃあ、私はこれで……〟と俺の部屋から出て行った。
───やけに、今日の雨は激しかった。