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生贄のプリンセス【Fischer's】

第6章 嘘


傘をカフェに忘れてしまって、びしょ濡れのまま私はお城に帰ってきた。
ここに帰れば、これ以上私の心が壊れてしまえば。
私はシルクの答えを聞かなきゃいけなくなる。

いつも間違えてしまう人生の岐路に立つのは、とても怖いことだった。


ギィ、と、重い扉を重い気持ちで開ける。

会いたくないなぁ、なんて、こんな所で偶然会う可能性なんて低かったのに。
そんな思いを彼は察したのかもしれない。

「……恋奈」

そこには、今一番会いたくなかったシルクがいた。


「なんで…濡れてんだよ……」

声なんて聞きたくない。
答えたくもない。

私はシルクの前を通り過ぎようと思ったけど、なぜかガッと腕を掴まれた。


あなたは王子様。私は生贄。
私に構ってる暇なんてないでしょ?

抑えきれない言葉が涙に代わって出てこようとしていたけど、必死に瞼のポケットにしまい込んだ。
ポケットを何度か叩いたら今にも溢れてしまいそう。


シルクに背を向けているからか、どうやらそんな私の状態を分かっていないようで。
何度も声をかけてきた。

「なあ、なんで濡れてんだよ?」

「……嫌いなら、嫌いって言えよ…」

シルクは諦めたようにそう言った。
徐々に声に怒りが含まれていくのは分かっていたけど、それでも、声を出す勇気はない。


きっと、それは


「で…」

「は?」

「──触らないで!!」

あなたのせいになんか、したくないから。

ごめんね。
全部、私のせいなんだね。

いっぱい溜め込んだ涙が、一度頰を伝った涙の跡に続いてとめどなく溢れる。
ぼやけた視界の真ん中、力を無くしたようなシルクの顔が映った。

あぁ、こんな顔を、させてしまっていたんだ。

自分でも分かっていた。私のせいなんだよ、と。
それでも心の中で吐き出した言葉は毒に絡まれていて、それはまるで彼のせいと言うようだった。


「……何なんだよ」

私の腕を掴んでいた手はするりと抜けて、シルクは私に背を向け去っていく。

私の嗚咽がホールに響き渡る。
早く、早く扉よ閉まって。その重く大きい音で全てを隠して。

私の本当の気待ちが、彼に伝わってしまう前に。
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