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生贄のプリンセス【Fischer's】

第6章 嘘


──大粒の雨が降りしきる、梅雨の日。
雨の日キャンペーンの10食限定パンケーキを食べるため、私とイズカちゃんは昼食の買い出しついでに、近くのカフェへ寄った。

「わ〜美味しそう!」

出来立て熱々のパンケーキの上に、アイスクリームがとろんと溶けている。
こんなふわふわな生地の上で溶けられるなら本望かもしれない。
そう思った時には、もう私の口からよだれが出そうだった。

じゃあ、早速…!

そわそわしながら手にナイフとフォークを握り、ごくりと生唾を飲み込んだ。そしてパンケーキにフォークを差し込もうとした時、

「恋奈さん、ちょっと…いいですか?」

イズカちゃんが申し訳なさそうに、その言葉で私の手を止める。
……仕方ない。大事な話かもしれないのだ。
パンケーキにいくら声をかけてもイズカちゃんの代わりに喋ってくれるわけではないので、大人しくナイフとフォークを置いた。


「あの、実は……」

イズカちゃんはさっきよりも申し訳ないという顔をして、話し始める。
それは私達──いや、私の歯車が狂い始めた瞬間だった。

「恋奈さんの事を、シルク様が苦手だというのを聞いてしまって……。」

突然。

何の前触れもなく、歯車がギスギスと擦れた音を出し火花を少しずつ散らす。それを包む心でさえも、故障し始めた。
沢山の言葉は頭の中で渦巻くのに、そこから一向に言葉は出てこなかった。

嘘だって信じたいけれど、オンボロで一度捨てられた人間が嫌われるなんて、いくらでも可能性はあるわけで。

──どうしたら、これ以上傷つかないで済むの?



黙り込んでしまった私を見て、イズカちゃんは

「ごめんなさい。お伝えしない方が良かったと思ったんですけど、恋奈さんがこんな事を言われているのは、どうしても許せなくて…」

そう私に言う。
きっとイズカちゃんのせいではないのだろうけど、それでも、私の心はもう誰も信じられないような気がした。

私は徐に席を立って、荷物を持つ。

「ごめんね、今日は一人で帰るよ。
パンケーキ、私の分まで食べて」

ただそれだけ言って、私は外へと出た。


神様、教えてください。

この雨は、私の涙ですか?
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