第6章 嘘
「あ、あぁ!あの…!」
どうやらこの人は、私が最初に出会ったメイドさん イズカちゃんの、お姉さんらしい。
よくよく見れば美しさのある顔立ちをしている。イズカちゃんに似た声でもある。
「名前はソアと言います。
すみません、最初に申し上げていれば──」
そう角度が35度のお辞儀をソアさんがしかけた時だった。
「お姉様!」
とたとたと焦って廊下の方から走ってくるイズカちゃん。
私に気付くと、慌てた様子だったけど いつものきっちりとしたお辞儀をしてくれた。さすが、皆から慕われているメイドさんだ。
イズカちゃんは、私達の方に近寄ってきて、
「お姉様、こちらに帰ってきていたのなら早く言ってください!」
怒り気味の様子でイズカちゃんは言う。
ソアさんは全く反省していない様子だったけど、微笑ましい姉妹という感じだった。
「ごめんね。姫様がついにやってきたと風の噂で聞いたものだから、つい。」
ソアさんがそう私の事を姫なんて言うものだから、顔がぽっと暑くなった。
自分を目当てで訪問しに来てくれている人がいると思うと、少しは姫らしくなれたと自信を持つことができた。一番は、やっぱり国に観光という目的で来てくれる事だけど。
私は笑顔を見せて、
「ありがとう。ソアさん、今日はゆっくりしていってね。」
そう言った。
ソアさんはゆっくりとにっこりと笑って、お礼とともにお辞儀をする。ソアさんもメイドだったのだろう。それとも現役?
どっちにしろ、育ちの良さが滲み出ていて きっと良い親御さんに恵まれたんだと思った。
……思っていた。
「せっかくだから、イズカちゃんも一緒に朝食どう?」
「えっ、いいんですか?!ありがとうございます…!」
一瞬、ソアさんの顔が歪んだのは……
いや、憎悪と苦しみを満遍なく散りばめたような そんな顔をソアさんが見せたのは、気のせいだったのだろうか──。