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生贄のプリンセス【Fischer's】

第6章 嘘


皆が思い浮かぶお姫様や、プリンセス。
私が子供の頃見た童話のプリンセス達は私を見捨て、遠ざかっていく。

嫌だ、行かないで……

私を、本物のプリンセスにして……!



「──っあ、」

思わず肩で呼吸をする。
ぐっしょりとなった額に、衣服。
見た事のある天井にホッとして、あれは夢だったんだとようやく理解した。

昨日、あれから夕食を食べてお風呂に入り、すぐにベッドに倒れこんだ記憶が脳内で再生される。
それにしては、浅い眠りだったな…

「恋奈様、起きていらっしゃいますか?」

そう考えていると、こんこんと扉がノックされ 扉の向こう側から声が聞こえてきた。
どうやら朝食はもう皆食べ終わってしまったようで、時間を確認するといつもより二時間も遅れて起きたことに気がつく。

結局あの問題は解決できていないから、っていうより、何の話も聞いていないから、シルク達と顔を合わせなくてよかった。

私はメイドさんに返事をして、ささっと着替えを済ませてからリビングに向かった。


「今日はサラダ、目玉焼き、バタートースト、コーヒーとなっております。
コーヒーはお砂糖をお入れ致しましょうか?」

コーヒーは甘い方が好きだ。
苦いのを飲み続けていたら、人生まで苦くなってしまいそうだから……なんて、無茶な理由をつける。

ただ苦いのが嫌いなだけ。

「うん、宜しく。」

せっかくこんなに美味しい食事が用意されているのに、一人か…

寂しさを感じていた私を見かねたのか、コーヒーの準備をしていたメイドさんが手を止めて

「あの…良ければなのですが、お食事ご一緒させて頂いても宜しいですか?」

と、優しい笑顔で聞いてきた。
たまにはメイドさんとの食事も悪くないよね。
私はすぐに頷いて、メイドさんのカトラリーなどを用意する。


その間にまじまじとメイドさんを見ていたら、全然知らない人だった。メイドさんの顔は喋った時に記憶しているけど、多分、この人とは初対面。

「あの…名前は?」

メイドさんがぱっちりとした目でこっちを見てくる。
何か変なことを言った…?もしかして初対面じゃないとか……?

ハラハラドキドキしていたら、メイドさんはプッと吹き出して 笑いながら

「すみません、私、イズカの姉です。」

と、ニコニコ笑顔でそう言ってくれた。
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