第5章 今更
「___そんな、大丈夫なわけ……!」
モトキが珍しく目を見張って、声を荒げようとしていた。
でも、私はそれを遮るように首を横に振る。
「皆が心配することはないよ。」
全ては私が勝手にした事だ。
彼らに罪はないし、そんな重いものを背負ってもらいたくはない。
これ以上、彼らを苦しめたくない。
私は姫になっちゃいけなかった。
弾んだ気持ちを地面に叩きつけられるような気持ちが、心を侵食していく。
情緒が不安定なのは自分でも分かっているし、何ならあの村での事件が起こる前の方が情緒は安定していた。
でも。
それでも、生贄にされるくらいなら。
例え情緒が不安定になっても、どれだけ傷付いても、姫になりたかった。
……もう今まで通りに過ごしても戻らない生活だったのなら、せめて彼らだけでも楽になってほしい。
そう思って、口角を無理に釣り上げようとした時だった。
涙が不意に溢れる。
込み上げてきた嗚咽がおどおどしく出てくる。
うるさいほどに部屋に響いて、空気ごと音が掻っ攫っていった。
「恋奈……無理しなくていいんだよ…?」
ンダホの言葉が、私の嗚咽と一緒に耳に入ってくる。
彼らの優しさに甘えて、こんなにも迷惑をかけるくらいだったら。
私から離れなきゃ。
「無理なんか───」
無理なんか、していない。
そう言おうと、嗚咽を押しのけ最後まで言い切ろうとした時だった。
「もう、強がらなくていいよ…」
ぺけが苦しそうに言った。
今までの言葉にならない私の声が嘘だったみたいに、自然と嗚咽が止まる。
私が彼らの為だと思っていた行為は、逆に彼らを苦しめていた。
どうしてここまで私を引き止めるのだろうか。
姫がいないと、王子という立場が危ないから?
名誉が失われるから?
───そんな汚い理由じゃなかった。
「俺らは、恋奈を守りたいから。」
私に対しての、思い。
ただそれだけだった。