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生贄のプリンセス【Fischer's】

第5章 今更


シルクside___

彼女と歩く廊下は、いつも以上に広く感じた。
窓から入る満月の光が、いつも以上に柔らかい。

彼女といると、当たり前の事が全て当たり前じゃなくなったかのように思える。
不思議で、柔らかい感覚を覚えた気がした。

「ねえ、王様ってどんな人?」
少し先にいる彼女が、俺にそう訊く。
ぴょんっと、可愛く跳ねるような声音が、廊下に響いた。

「んー……そうだな、まぁ、優しい人だぞー」
少し先にいるから、という理由で、大きめの声を出した。
本当は、ちょっと照れくさかったのかもな……なんて。

「会ってみたいなぁ……連れてきてよ」
いたずらっぽく笑う彼女に、〝連れて来るとかの分際じゃねえの、俺らは〟と俺も笑い返す。
無邪気な声が、廊下を埋め尽くすように響いた。

もうすぐ俺の部屋が近付いてくる。
彼女に促されて、俺の部屋を見学することになったのだ。
ホント、子供みてえだなと笑う俺を不思議に思ったのか、彼女は首を小さく傾けた。

「何でもねーよ。ほら、着いたぞ」

乱雑に扉を開けて、すぐ電気を点けた。
……やべ、散らかってたかも。
その思いを潰すかのように、彼女は〝わぁ〜っ‼︎〟と大きな声をあげる。

シンプルで、言ってみれば何もない。
それなのに、本来置く場所が決められている物すら、乱雑にテーブルの上に散らかっていたりする。

姫には似合わねえ部屋だな、と自虐的に心の中で笑った……のにも関わらず、彼女は相変わらずワクワクドキドキと感情を抑えられない様子だった。

「普通の部屋だろ」
と俺は笑うけれど、彼女は〝ううん! 綺麗なお部屋だよ‼︎〟と、まるで最高級の料理が出てきた時かのように喜んでいた。
まぁ、お前の部屋じゃないけど……。

「とりあえず落ち着け。そこら辺に座ってろ」

俺が笑いながら言うと、〝はいっ!〟と元気よく返事をしてから
大人しく正座をしていた。

純粋かよ、なんて姫に笑かされるばかりの俺は、ビールと麦茶を冷蔵庫から取り出す。
それから二個コップを棚から取り出して、テーブルに置き、ビールと麦茶を注ぎ始めた。

ちょうどいい機会だ。
俺は、彼女と色々話してみようと思う。
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