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生贄のプリンセス【Fischer's】

第5章 今更


「__今日はお疲れ様でした」

私は麦茶を手に持って、シルクはビールを。
二人きりの部屋に、本日二度目のグラスの当たる音が残った。

私もシルクも喋りすぎて喉が渇いたのか、勢いよく麦茶とビールを飲む。
飲み終わった後の〝ぷふぁ〜!〟という声は、ぴったり揃った。

「……で、今日はどうだった?」

窓から差し込む綺麗な月の光に合わせたのか、それとも大人な雰囲気に合わせたのか。
ゆっくりと、シルクが私に聞いてきた。

「とっても楽しかった。皆との思い出の一ページが作れたかなぁ、なんて思ったよ」

アルバムはまだ白紙だった。
だけど、今日のパーティや、私を歓迎してくれた皆のおかげで、一ページ目は完全に埋まったと思う。

「思い出の一ページ……か。お前となら、何ページでも作れる気がする」

……もう酔っちゃったかな、なんて。
そう思えるほどに、シルクは似合わない台詞をぽつりと言った。

流れていく空気が妙に恥ずかしくて、少し俯く。
でも、恥ずかしさよりも〝私となら〟と言ってくれたことが、一番嬉しかった。

私を選んでくれたんだ。〝誰々となら〟の所に、私を一番に思い浮かべてくれたんだ。
そう思うと恥ずかしくて、でも、彼の頭の中に、私がちゃんと記憶として残っているという事実を 彼が届けてくれたような気がした。

「……ありがと」

麦茶だから、酔うはずなんてないけれど。
私も少し酔ったフリをして、短くお礼を言った。

……心臓の音、聞こえないでいてほしいな、なんて。
まるで、心臓がうるさく鳴る理由を心のどこかで分かっているかのように願った。

これ以上空気だけが流れるのも苦痛なので、

「シルク?」
と、私が声をかけた。
シルクが〝あ、あぁ〟と返事した瞬間、こんこんと小さなノックが聞こえた。

二人で顔を見合わせていると、扉が開く音もついでに聞こえてきた。
再度顔を見合わせて 扉の方を見ると、そこにはンダホとモトキが。

「もう夜も遅いし、皆で一緒に寝ない?って事になったんだけど……」

「どう?」

二人の言葉が繋がって、こちらに届いてくる。
〝ぺけは?〟と言いかけたが、モトキの腕を視線で辿ると、そこにはぺけもいた。
時計を見ると、ちょうど22時を回る頃で。

三度目の、と言わんばかりに 二人で顔を見合わせて、

「いいよー」

「いいぞー」

終いには声も揃えたのだった。
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