第14章 暮るる籬や群青の空
―――彼女は何時だって、太宰の隣で幸せそうに笑っていた。
生まれて初めて惚れた女の隣には、何時だって大嫌いな顔が居た。
けれどきっと彼女も、それを望んでいたのだろう。
何時だって俺の入り込む隙間なんて、少しも有りはし無かったのだから。
なんで太宰なんだよ。なんで俺じゃねえんだよ。
そんな心の叫びも虚しく。
太宰がポートマフィアを消えた日。
それを聞いた俺は、真っ先になまえの処へ向かった。
いつも隣にいた太宰は、当たり前だけれどもう隣には居なくて。
代わりに、酷く傷ついた顔をしたなまえだけが其処に居た。
隣からあの男が消えた。
当然俺にとっては、願ってもないことだったのに。
全てを失ったような顔をした彼女を見て、なまえがどれだけ彼奴を想っていたのか、改めて思い知らされた気がした。
同時に俺は焦った。
もしかしたら、彼女が此処からいなくなってしまうのではないかと。
如何してか俺の厭な予感は、何時だってよく当たる。
結局、彼女と約束した"明日"が来ることは無く。
彼女は太宰と共に、静かにポートマフィアを去った。
なあ、太宰。
手前はいとも簡単に、なまえの手を引き光の世界へと連れて行った。
いくら俺が、彼女を愛していようと。
いくら俺が、彼女に愛を伝えようと。
そう、何時だって二人の間に。
俺が入る隙間なんて、少しも有りはし無かったんだ。
こうして振り返ってみても、何時だって俺は、此奴に何もしてやれない。
幸せになれよ、と。
恰好良く送り出しでもしてやりたかったさ。
なのに俺は―――なまえが消えたあの日から、四年もこうして未練がましく追いかけていやがる。
どうやったって諦められねえ。忘れてやれねえんだ。
それならもういっそ、突き放してくれればどんなに善いだろう。
―――”『それでも私は………中也を恨めないよ。』”
なあ、なんでだよ。
手前は何時だって狡い女だ。
嫌いになって、幻滅して、いっそのこと恨んで、憎んでくれれば、どんなに楽だろう。
俺は太宰のように、光の中では歩けない。
もう本当は、随分前から気付いていたんだろう。