第14章 暮るる籬や群青の空
『中也、如何したの?大丈夫?』
なまえの声に、ハッと我に返る。
―――敵同士だというのに。彼女の仲間を売ったというのに。こんな時でも此奴は。眉を八の字に下げて、心底心配そうな顔をして、俺を見るんだ。
「………なまえ、」
『うん?』
「……ごめんな。」
中也のその一言は、なまえの心にひどく重く、響いた気がした。
『…何よ、急に。中也が謝るとか、気持ち悪いからやめてよ……今此処に"治がいたら"気持ち悪すぎて気絶してたよ?』
「嗚呼、そうだな。悪い、」
『…え…?』
「此処まででいい。大変な時に悪かった。俺たちは今や敵同士だ。惚れた腫れただの言ってる場合じゃあ無えよな。明日には殺し合ってるかもしれ無えってのに。」
『……そう、だけど…』
なまえの言葉も待たずにくるりと背を向け歩いて行く中也の背中を、なまえは追いかけた。
『待ってよ、何よ急にっ…!?』
中也は振り向かない。
『ねえ……中也ってば!』
行こうとする中也の腕を、ぐい、と引っ張る。
その瞬間、中也は勢いよくなまえの腕を振り払った。
「、触んなッ!!」
『ッ……!』
なまえは、目を見開いたまま其処に立ち尽くした。
中也と初めて出会ってから、もう七年ほどになるだろうか。
その長い年月の中で、中也から拒絶されるなんてことは、これが初めてだったからだ。
『……中、也…?』
なまえの呼びかけに、中也はハッとしたように目を見開く。それはどこか、困惑したような表情だった。
「………なァ、なまえ……俺は手前を光の世界へ連れ出した太宰とは違う。腐ってもポートマフィアの人間だ。どんな仕事だろうが首領の命令なら喜んで受け入れる。それがたとえ……手前の大切な仲間を殺す事だったとしても」
『………、』
「幻滅したか?もういっそのこと、俺を恨んで憎んでくれよ……?」
右手で顔半分を覆いながらそう云う中也の口元は、酷く悲しげに歪んでいた。