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青 い 花 【文豪ストレイドッグス】

第14章 暮るる籬や群青の空






「よォ。漸と来たか。待ち草臥れたぜ。」

『何の用よ。』

「惚れた女に会いに来るのに理由が要るか?」

『こんな時に巫山戯ないで。』

「……巫山戯てねえよ」

『……今……そんな余裕、ないってば。』

「………」


なまえの表情が、途端に曇る。
ちくり、と痛む胸にちっと舌打ちをして、中也はそっと彼女に近寄った。


「……こんな時に悪かった。そんな顔すんな。」

『…別に。中也が謝ることじゃないから。』


かつて味方だった二人は、今や相反する敵同士。
その二人の間にどんな想いがあろうと、その事実は変えられない。


中也は一度考えるように黙ってから、噤んでいた口を開いた。


「………なまえ、」

『………何…』

「……俺を恨んでいるか?」


中也の言葉に、なまえは俯いたまま。


『……中也を恨んで如何するの?全部首領の指示なのに。』

「だが従って動いたのは俺だ。」

『……そうだね、』


言いながらなまえは、自嘲気味に笑う。



『それでも私は………中也を恨めないよ。』



なまえの言葉に、中也はぐっと下唇を噛んだ。
鉄の味が、ゆっくりと口内を侵食する。



―――そんな顔を、させたいんじゃないのに。




『……出口まで送るよ。伝えたいことがあるんでしょ?話しながら行こう。』


言いながら先へ進むなまえの弱々しい背中に、どうしようもなく胸が痛む。




―――好きな女にこんな顔をさせておいて尚、何もしてやれないのか、俺は。







『中也?』


自分の名前を呼ぶ彼女の声に、胸がじんわりと熱くなって、苦しいほど、締め付けられる。




―――太宰なら。



そんな事を一瞬でも考えた自分にどうしようもなく厭気が差した。

敵になってしまった以上、如何やって俺は此奴を笑顔にさせてやればいい?如何やって幸せにしたらいい?
さんざ諦めないだの奪うだの言っておいて。

今の自分は、なまえのために何一つだってしてやれない。側にだって、いてやれないのに。



太宰の木偶だ?木偶は俺の方じゃねえか。



何が―――俺の方が幸せにしてやれる、だ。


幸せにするどころか、惚れた女の笑顔の一つも守れないなんて。









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