第14章 暮るる籬や群青の空
「その異能……"重力遣い"の中原中也だね。」
与謝野の言葉に、中也は舌打ちをひとつ。
「ち……太宰の兵六玉が喋ったか。」
「なまえのストーカーなンだって?」
「はァ!?……あの青鯖野郎余計な事を……」
「いいからとっとと降りて来なよ!」
「(逆さに立ってるのに帽子が落ちてこない……やっぱり都会って凄い!)」
「太宰が其程警戒してんなら、期待に応えねえとなァ」
そう言って、ふわりと降りた瞬間。
轟音が鳴り響いたのと同時に、中也の降り立った地面が広範囲に割れた。
「さァ "重力"と戦いてえのは何方だ?」
あまりの凄まじさに、与謝野が目を見開いていれば、監視映像から福沢の声が響いた。
《答えよ。ポートマフィアの特使。》
「?」
《貴兄らの提案は了知した。確かに探偵社が組合の精鋭を挫けば貴兄らは労せずして敵の力を殺げる。三社鼎立の現状なれば、あわよくば探偵社と組合の共倒れを狙う策も筋が通る》
「だがお宅にも損はない。だろ?」
中也はそういってニコりと笑う。
《この話が本当にそれだけならばな。》
「………」
《探偵社が目先の獲物に喜んで噛み付く野良犬だとでも思うか?敵に情報を与え操るは高等戦術だ。この様な木目の荒い策で我等を操れると考えるなら、マフィアなど戦争する価値もない。》
「………敵の頭目から直々に挑発を賜るとは光栄だな。」
《何を隠している?》
「何も」
《この件の裏でマフィアはどう動く?》
「動くまでもねえよ。其処にいるんだろ?なまえ、答えてやれよ。手前なら判るだろう?」
中也の言葉に、福沢はなまえを見た。
「なまえ。」
『……組合は私たちと同じように罠を疑ったはずです。しかし、彼等は食い付いた。それは……余りに"餌"が魅力的だったからです。』
なまえの言葉に、乱歩は気付いたように眼鏡を掛けた。
「やあ 素敵帽子君。組合の御機嫌二人組に情報を渡したのは君かい?」
《あ?……そうだが(素敵帽子……)》
「何で組合を釣った?」
乱歩の問いに、中也は冷たい笑みを浮かべた。